エゴツルクビオトシブミ(驚異の本能とその限界)

井の頭公園では毎年、エゴノキ(あるいはハクウンボク)の若葉が伸び始めた4月中旬ごろから、筒状に巻まかれた葉がいくつもぶら下がっているのを目にすることができます。これは、エゴツルクビオトシブミという甲虫(ゾウムシの仲間)が作った「落とし文」(揺籃)です。

▲エゴノキにぶら下がる揺籃(落とし文)

「落とし文」とは、密かに渡すために道端に落として相手に拾ってもらう手紙のことです。つまり巻いた揺籃を切り離して地面に落としたものを手紙に見立てたわけですが、エゴツルクビオトシブミは揺籃を切り離さないで「吊るし文」にしていることが多く、見つけやすいのです。

この葉を広げてみるともっとも内側に卵が1個だけ生みつけられているのが分かります。揺籃の中で孵化した幼虫は内部の葉を食べて成虫にまで育ちます。揺籃は外敵から守るシェルターであり、食料でもあるのです。

▲揺籃の中に産み付けられた卵

揺籃がついたエゴノキをよく見ると、揺籃の作り主、エゴツルクビオトシブミが見つかります。

▲エゴツルクビオトシブミのメス(左)とメス(オス)。オスの長い首(ツルクビ)が特徴。メス(右)の首は長くない。体長5~7mmぐらいの大きさ

私は、オトシブミについては、ファーブル昆虫記(子供向けにリライトされたもの)を読んで知っていただけだったので、これが実際に井の頭公園で見られると知ってわくわくし、一時観察に夢中になりました。

4月中頃羽化したメスは、伸びてきたエゴノキ(ハクウンボク)の葉にやってきて、揺籃づくりを始めます。

先ず揺籃を作る葉を選ぶため、葉の上を歩いてチェックします。選んだら葉の横から切り始めて、主脈を横切ってJの字型になるような切り込みを入れます。次に葉を縦に二つ折りにして、下からくるくると巻き始めます。途中で産卵するようです。最後に巻物がほどけないようにすその始末をして終わります。これらの作業は、顎で噛んだり、脚の力で引き寄せたりしながら行うのです。

▲オスはメスが作業しているとき、マウントしていることが多い。交尾しているのか、他のオスから守っているのか。

このいくつもの複雑な工程を着々と間違えることなく続けるオトシブミは、すべて本能の命令に従った機械的作業で揺籃を作っているわけで、「本能ってすごい!」と感嘆してしまいます。どんな熟練の職人でも、あるいはAIロボットでも、このような揺籃を作るのは、至難の業ではないでしょうか。

しかし、揺籃づくりを観察していると、時々何かの障害にあって途中で作業をやめてしまうことがあります。途中でやめてしまった揺籃に戻って続きを行うことはありません。また、新しい場所で1からやり直すだけのようです。スタートから終了までの一連の工程が連続するようにプログラミングされているので、後戻りしたり、一旦やめた作業の続きを行ったりすることはできないらしいのです。これが本能的行動の限界なのでしょうか。 自然界は想定外の出来事が多すぎて、プログラミングしきれないわけです。できた揺籃を調べてみると、当然ながら大きさが違うし、失敗作かなと思うものもあります。オスが争いをして作業を邪魔したり、天敵が襲ってきたり、卵を狙って忍び寄る寄生蜂があらわれたりして、いろいろなドラマが生まれます。それが観察の醍醐味になります。

▲おかしな切込みが入った揺籃
▲オスが長い首を打ち合わせて争っている。それが邪魔になって揺籃が作れず、メスは飛び去る。小さな寄生蜂も忍び寄っていた。

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