南から来たチョウたち③ ナガサキアゲハの場合

私は2004年9月25日に井の頭公園内でナガサキアゲハを始めて確認しました。このチョウもツマグロヒョウモンと同じく、以前は関東では見られない南国のチョウだったので、「ついに井の頭公園にも現れたのか。」と夢中で写真を撮りました。

▲私が井の頭公園内で最初に見たナガサキアゲハ 2004年9月25日

東京でナガサキアゲハが見らるということは当時はニュースにもなる出来事だったので、新聞記事になったりもしました。

▲朝日新聞地方版の記事 2006年10月28日

また、温暖化とナガサキアゲハの北上の関係を検証したレポートも発表されました。

温暖化ウォッチ(14)チョウの分布域北上現象と温暖化の関係 (nies.go.jp)

その後ナガサキアゲハは、井の頭公園内でもすっかり定着し普通種になり、園内での繁殖も確認しました。

▲園内で交尾するナガサキアゲハのペアと園内のミカンの樹で育つ幼虫

ところで、ナガサキアゲハは、とても大きなアゲハチョウの仲間ですが、オスとメスの翅の模様がかなり違い、メスの方が目立ちます。また、尾状突起がないという、アゲハにしてはちょっと特殊な形をしています。

▲ナガサキアゲハのメス 尾状突起がなく、下翅に白と赤の大きな斑紋が目立つ。

▲ナガサキアゲハのオス 表から見るとほとんど真っ黒、下翅の裏にかすかに斑紋がある。

この尾状突起のないナガサキアゲハをすっかり見慣れたころ、さらに驚く情報が入りました。

2018年、親交のあるチョウ愛好家の方が、なんと尾状突起のあるナガサキアゲハを井の頭公園で見つけられ、写真を送ってくれました。許可を得て私個人のブログで紹介したところ、もう一方、井の頭で写真を撮っている方が、2017年の写真も提供してくれました。

▲2017年、2018年に井の頭公園内で撮られた尾状突起のあるナガサキアゲハ 

有尾型は、とても派手で、いかにも南国のチョウという印象です。この尾状突起も、メスだけに現れるそうです。

このタイプのナガサキアゲハは、東南アジアなどの南方に多く、日本では少ないらしいのですが、それでも時々関東地方でも見られる例があるそうです。(その後有尾型が井の頭公園にいるという情報は耳にしていません。)

有尾型は、ツマグロヒョウモンと同様に、ベイツ型擬態によるもので、モデルは南国のチョウ、オオベニモンアゲハと言われています。これに対して今関東地方に生息している尾状突起のないナガサキアゲハは非擬態型というそうです。

オオベニモンアゲハは見たことがないので、参考までに南西諸島で撮ったベニモンアゲハ(これも毒蝶)を掲載しておきます。

ちょっとジャコウアゲハ(毒蝶)とモンキアゲハが混ざったような感じですね。

今後、この有尾型のナガサキアゲハが井の頭公園に定着するような状況になるのでしょうか。

文責:takaku

南から来たチョウたち② ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモンは現在、井の頭公園で普通に見られるチョウ(タテハチョウ科)です。

▲井の頭公園で見るツマグロヒョウモン。オス(左)とメス(右)メスの翅の先(褄)が黒い。

しかし、20年以上前にはこのチョウは東京にはいませんでした。

以前、ネット上で交流していた四国在住の方のお庭に、とても華やかな見知らぬチョウが来ているのを写真で見て、何だろうと調べてみたことがあります。当時、ツマグロヒョウモンの分布は「三重県以西」とありました。「東京では見られないチョウなのだ、いつか南の地方へ行って、こんなチョウを一度は見てみたい」とあこがれました。

その後2004年、私は東京の公園で初めてツマグロヒョウモンを目にしました。信じられなくて、とてもびっくりして、何枚も何枚もシャッターを切ってしまいました。 南国へ行かなくても、南国のチョウが見られたのです。でも、結局ツマグロヒョウモンが東京で見られるのは、温暖化のせいらしいと知って複雑な気持ちになりました。

私が井の頭公園でもツマグロヒョウモンを確認したのは、2005年です。

▲アベリアの花で吸蜜するツマグロヒョウモンのオス 2005年10月1日 井の頭公園

井の頭公園では、その後すっかり定着し、また、新聞紙上などでもこのチョウが関東地方へ進出してきたことはよく話題になりました。

今、ツマグロヒョウモンは公園で見ても、シャッターを押す気持ちにもならないほどありふれたチョウになってしまいました。そして、はるばる南国へ行って目にしても、「ツマグロヒョウモンが見られて、南国へ来たかいがあった。」という感慨もなくなってしまいました。東京のチョウ世界の原風景が変わってしまったという寂しさも感じます。環境の多様性が失われ、世界が均一化してしまった感じです。

ヒョウモンチョウの多くはスミレを食草としていますが、ツマグロヒョウモンは園芸種のパンジーなどを好むらしく、飛来したころは個人宅に庭のパンジーに産卵しているのがよく見られました。けれど、最近は公園の野草のタチツボスミレにもよく産卵しています。すでに環境にうまく適応し始めているということでしょうか。

▲井の頭公園や隣接する個人宅で見られるツマグロヒョウモンの生活史

ツマグロヒョウモンの謎として、オスとメスの違いがあります。メスだけが褄が黒いのですが、これは、南方の毒蝶カバマダラに擬態(ベイツ型)していると言われています。なぜ、メスだけが擬態しているのか、カバマダラのいない関東で、この擬態は果たして生存に優位に働くのか、 いろいろ議論されているようです。

▲関東地方の湾岸部に飛来したカバマダラ

実は、カバマダラは、ときどき関東地方の沿岸部に飛来して話題になったことがありました。これもそのうち定着したりするのでしょうか。

ツマグロヒョウモンは、私にとっては、昆虫と地球温暖化の関係に気づかせてくれたチョウです。「なんだツマグロヒョウモンか」などと思わず、今後の成り行きを注視していかなければなりませんね。

※ここでいうチョウのベイツ型擬態とは、鳥類などの捕食者に対して無毒でおいしい種(例:ツマグロヒョウモン)が、有毒で嫌な味のする種(例:カバマダラ)の外観、形、行動を模倣することによって捕食を逃れる現象です。

文責:Takaku

井の頭公園を通過するアカショウビンとヤイロチョウ

 私は2017年と2018年の2年間、奥多摩など東京山間部で夜間の鳴き声調査を行いました。

 調査はミゾゴイ、フクロウ、アオバズク、オオコノハズク、コノハズク、ヨタカなど、夜間にさえずる鳥類を対象種としたのですが、思わぬ副産物として、夜間にアカショウビンやヤイロチョウの声が録音されるケースが何度かありました。

 アカショウビンもヤイロチョウも、基本習性は日の出時刻がさえずりタイムです。しかし、5月20日前後の飛来期には夜中にも鳴きながら飛んでいることがわかりました。夜は静かなので、朝や昼より声が良く聞こえる時間帯です。飛来期に繁殖する相手を探しながら徘徊しているのではないか?婚活飛行ではないか?と私は想像しています。

 婚活飛行であることの証明は、なかなか難しいのですが『5月20日前後に、夜中に鳴きながら飛んでいる』というのは紛れもない事実で、山間部では2年連続でヤイロチョウの声が録れた地点も何か所かありました。

 その後2019年からは公園管理者の許可をいただいて、井の頭で365日の録音調査をやっています。タイマー録音の設定は日の出前2時間、日の出後2時間くらい、鳥のさえずりタイムを中心にどんな鳥が鳴いているのかを調べています。

 普段は1日4時間録音くらいを目安にタイマー録音をしているのですが、5月20日前後に日没から日の出まで長時間録音をすれば井の頭でもアカショウビンやヤイロチョウが録れるのではないか?と考え、2020年から、この時期には一晩中録音に切り替えています。

 それで、録音できたのが下のアカショウビンとヤイロチョウです。

20200527 小鳥の森 アカショウビン
20210525 小鳥の森 ヤイロチョウ

 録音調査では、データの全部を耳で聴いてチェックすることは時間的に無理で、パソコンで上記画像のようなスペクトログラム表示にして、目で鳥の声を探します。

 アカショウビンの「キョロロロロ・・・」や、ヤイロチョウの「ホーヘン ホーヘン」の波形は、奥多摩の録音で何度も見ている波形ですが、井の頭公園での録音の中にこの波形を見つけた時には、心の中で「キターーーーー!」と叫びました。そして、その部分を再生して声を確かめて、ふたたび「よっしゃーー!」と心の中で叫びました(笑)。

 ちなみに、奥多摩でのアカショウビン、ヤイロチョウの記録は沢のある場所がほとんどでした。(一か所だけ、山の尾根線でヤイロチョウの声が録れた例もありました)。井の頭公園でこれらが録音できたのは、玉川上水の連続する水と緑の環境が貢献したのではないか?と考えています。

 このヤイロチョウの声の記録は、ヤイロチョウの本場、四万十川で研究と保全活動をされている(公財)生態系トラスト協会の皆さんにも聞いていただきました。本場の皆さんからも『都市の真ん中を飛んでいくヤイロチョウの記録として貴重である』とコメントをいただきました。

suzuki

南から来たチョウたち ①

昨年(2021年)の10月のこと。井の頭公園内のセイタカアワダチソウに吸蜜に来たウラナミシジミを撮っていたとき、撮った写真をよく見ると、ウラナミシジミとは違っていました。しかし前に見たことがあるチョウのような気もします。そこで思いついたある名前をスマホでチェックしてみました。(便利な時代になったものです。)やはり、そのチョウは予想どおり「クロマダラソテツシジミ」でした。

▲井の頭公園に現れたクロマダラソテツシジミ 2011年10月26日
▲翅を開いたところ 同日同場所

私が持っている図鑑「蝶」(新装版山渓フィールドブックス)2006年初版発行には、クロマダラソテツシジミは掲載されていません。もう1冊最近購入した「フィールドガイド日本の蝶」(日本チョウ類保全協会編、誠文堂新光社刊)2012年発行には、「かつては国内に生息せず、1992年に沖縄島で初記録。近年は南西諸島や九州南部で定着。強い分散力と植栽による移動で、関東まで発生することもある。」と書かれています。つまり、クロマダラソテツシジミは、外来種として一旦沖縄入って定着し、それから暫時北上してきたチョウのようです。

このチョウの幼虫の食草は名前の通りソテツです。私も実は沖縄に行ったとき見たことがあるし、2016年には東京都の港湾部で観察したことがありますが、そこにはソテツがたくさん植えられていました。

ウィキペディアによれば、ソテツは

「日本列島に自生する唯一の種で、自然分布では日本列島の固有種である。日本列島の九州南端、南西諸島、台湾、中国大陸南部に分布する。主として海岸近くの岩場に生育する。なお、自生北限は宮崎県串間市都井岬である。本州には自生しないが、ある程度の寒さに耐え、異国情緒を醸す庭園樹になることから、寺社、庭園、市役所前のロータリーなど、各地で植えられている。」

とあります。

私が東京都でクロマダラソテツシジミ(成虫・幼虫)を、見たのはまさにそうした場所だったようです。

▲ソテツの葉を食べる幼虫たち 2016年11月2日 東京都港湾部にて

実は、この年2021年には新宿御苑にクロマダラソテツシジミが現れ、御苑のソテツに被害を与えているという話を聞いたばかりでした。内陸にも進出しているようです。

そこで、クロマダラソテツシジミが見られた井の頭公園近辺の植栽を調べてみると、とある一軒のお庭にソテツが植えられていました。

井の頭公園ではたぶん初記録だったのではないかと思いますが、今後定着するかどうかはわかりません。冬越しができるか、食草のソテツが十分あるかが鍵になりそうです。

ソテツが植えられているところは要注意です。

私が井の頭公園でチョウを観察し始めてからたかだか20年未満ですが、その間にも、クロマダラソテツシジミのように、以前にはいなかった南方系のチョウが次々と現れるのを目の当たりにしてきました。その記録を残しておきたいと思います。

つづく

文責:Takaku