ダイミョウセセリがレッドデータに!

もうすぐ8月も終わる時期の今、草が思い切り生えた公園の一角で、ダイミョウセセリを見ました。あたりにたくさん生えているキツネノマゴという小さな花の蜜を吸っているようです。翅がかなり痛んでいるようですが、それがたくましく生き抜いてきた勲章のようにも見えます。

ダイミョウセセリは、セセリチョウ科のチョウですが、モンシロチョウなどのようにひらひらと飛ぶチョウではなく、英名をskipperという通り、直線的に素早く次の花に飛び移ります。こげ茶色に白い斑紋がちりばめられた地味な色合いで、翅を開いて止まることが多いチョウなので、ガ(蛾)と間違えられる時もあります。(分類的にもガに近いチョウらしいです。)

このダイミョウセセリをなぜ取り上げたかというと、実は「東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)2020年版」(略称「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」)が2021年末に発表されましたが、このダイミョウセセリが新たに東京都区部でVU(絶滅危惧Ⅱ類)になっていたからです。井の頭近辺ではダイミョウセセリはごく普通に見られるチョウという印象だったので、びっくりしました。

ダイミョウセセリは、区部でなぜ絶滅危惧種になったのでしょうか。

井の頭公園(三鷹市・武蔵野市にまたがる)は、北多摩区域なので、今のところレッドデータのランク外ですが、区部に隣接する公園なので、区部の二の舞にならないようにしたいものです。

成虫は、4月から10月ごろまで四季折々の野草や花壇の花によく現れます。特に花のえり好みなく吸蜜するし、時には鳥の糞などを吸い取ることもあります。

春ハルジョオンが咲くころ第1化の成虫が現れる。

幼虫の食草は、ヤマノイモ科(ヤマノイモやオニドコロ等)です。チョウは食草に卵を産み付けると、自分の毛を卵に擦り付けて保護します。

幼虫は、葉に切り込みを入れ、折り曲げて糸で綴り、その中に潜んで暮らします。幼虫巣と呼ばれます。成長して体が大きくなると巣を移動して新たに大きな幼虫巣を作ります。そして幼虫巣の中で蛹になります。

▲ヤマノイモ科の葉を食べる幼虫(雑音あり。ミュートしてください。)

冬は、幼虫の姿で越冬。幼虫巣がついた葉は、冬には落葉します。幼虫はそのまま巣の中で冬を越し、春に蛹になります。(越冬巣)

ダイミョウセセリが絶滅危惧種になる理由は、どうもこのヤマノイモ科での繁殖の仕方にあるように思います。

食草のヤマノイモはどんなところにはえているのでしょうか。幼虫巣をたよりに、ダイミョウセセリが産卵場所として選んだ場所を探してみると、こんな場所です。

左は、井の頭公園に隣接する住宅街区域の玉川上水縁。つるが絡み合って歩道に進出したり、時には樹木を覆うほどに伸びていることもあります。そして、ときどき刈り取られてしまいます。

これが茂る場所は、他のつる性植物(ヤブカラシ・カラスウリ・ヘクソカズラ等)も絡んでいることが多く、手入れされていない荒廃した場所と感じられやすいのでしょう。特に、きれいに手入れされた状態を好む人が多い街中や住宅街では好まれない景観なのだろうと思います。

このフェンスは今老朽化していて、作り直すという問題も起きています。新しいフェンスがどのようなものになるかによって、ここもダイミョウセセリの生息場所ではなくなるかもしれません。

また、越冬巣がついた落ち葉は、しばしばきれいに掃き集められ、ゴミ収集車の中に放り込まれるのを目にしてきました。

ダイミョウセセリが絶滅危惧種にならないようにするためには、食草の適切な管理、落ち葉の処理の仕方等が大事だと思うのです。

文責:Takaku

かいぼりは生物多様性のためになるのか?

 井の頭池は過去3回のかいぼりをおこないましたが、絶滅危惧種のイノカシラフラスコモが約60年ぶりに自然復活し、2019年には在来希少種のツツイトモが繁茂し、新聞などでも「モネの池」と賞賛されました。しかし、2020年から重点対策外来種のコカナダモが増えはじめ、2022年にはコカナダモが井の頭池の藻で最優位になってしまいました。

 貴重な在来種の復活と繁栄を喜んでいた後だけに、それが外来種に置き換わってしまうことは残念なことで、とくに在来水草の保護活動をされている方々はショックを感じているだろうと思います。

 一方、水草以外の生物に目をやると、2021年秋から2022年冬にかけての越冬カモの増加や、飛び交うトンボも目に見えて増え、水草以外の生物は良い状態にあるようです。多様性も増しているように思います。

 井の頭自然の会が発足してから続けている野鳥ラインセンサス調査のデータから、池周りの水鳥のデータを抽出して個体数や多様度指数を求めてみました。

 冬ガモの越冬期間である10月から翌年3月の6か月間に記録された水鳥の合計数が下表です。

 

 とくに注目すべきは、植物を主食とするヒドリガモとオオバンの増加です。ヒドリガモはいままで数羽飛来しても井の頭に定住することはなかったのですが、コカナダモの繁茂と符合するように急増し、たった1年で井の頭池で最多数のカモになりました。

 そのほかにもオカヨシガモ、マガモ、オナガガモ、コガモなど、井の頭に定住していなかったカモが軒並み増えて定住するようになり、キンクロハジロ、ホシハジロなど潜水性のカモも増加してきています。これは、コカナダモの繁茂と藻を住処とする水生昆虫や小魚、川エビなども増えて、鳥たちにとっての餌環境全体が良くなっているのだと考えられます。

 カイツブリの数も増え、春以降の繁殖成功率も高い状態で維持されています。

 次に多様度指数(シャノンウィナー)を計算してみると下記のようになります。指数が高いほど多様性が高いことを示します。

 最後のかいぼりが行われた2018年には水鳥の多様度指数が2.0を超える回は1回しかありませんが、その後水草の復活と繁茂によって年々多様度指数が上昇しています。グラフではわかりにくいので、指数が2.0を超えた回数、2.5を超えた回数、3.0を超えた回数をそれぞれ数えたものが下表です。

 2022年はまだ7回(7月まで)しかセンサス調査をしていませんが、多様度指数が3.0を超える回がすでに3回もあります。

 このように個体数だけでなく、水鳥の多様性も年々高まっています。

 池の生態系ピラミッドを考えると、その土台にプランクトン、水草、水生昆虫、小魚などがあり、それらを食す鳥類はその上位に位置します。かいぼりという大規模な改変のあと、まず土台のほうから発生→繁栄→多様化がおこり、鳥類はそれより遅れて繁栄と多様化がおこっていると考えられます。

 池の水を全部抜くかいぼりをおこなうと、このように時間をかけて成熟してきた生態系全体の多様性をリセットしてしまうことになります。

 かいぼりをすればコカナダモは一旦減りますが、完全に駆除できる保証もなく、かいぼり後にふたたび大繁茂する可能性すらあると思います。

 また、コカナダモは長野県木崎湖や尾瀬沼で繁茂のあとに自然衰退し、在来のヒメフラスコモなどと共存しているという事例も報告されています。自然衰退はリンを消費してしまいリン欠乏することから起こるそうです。

 国立環境研究所の侵入生物データベースでも、オオカナダモコカナダモは『異常繁殖した後,衰退して安定または消滅する傾向あり』となっています。

 このような事例や知見を踏まえると、水草だけに着眼してかいぼりを急ぐのではなく、全体の生物多様性を重視するべきだと井の頭自然の会は考えています。コカナダモは歓迎できない種ですが、その駆除だけを目的にしてすべての生物をリセットすることは現時点では避け、コカナダモの自然衰退が起こるのか?起こらないのか?など様子を観ていくほうが良いように思います。

 井の頭かんさつ会の保全ブログでは、コカナダモが水の浄化に役立っていることなどもレポートされています。こちらもぜひ読んでください。

 suzuki

南から来たチョウたち④ クロコノマチョウ他

●クロコノマチョウ

クロコノマチョウはツマグロヒョウモンやナガサキアゲハと比べると、地味なチョウ(タテハチョウ科)です。花にも来ないし、落ち葉の上などに止まっていると、見事なカモフラージュとなって、目に入りません。成虫で越冬するので、冬に落ち葉の上を歩いていると、いきなり飛び出したりして気づくことが多いです。

▲枯葉の上にとまるクロコノマチョウ 

このチョウも、例えば2006年発行の図鑑によれば、分布は「本州(千葉県以西の沿岸地域)・四国・九州」とあります。2012年発行の図鑑では、「分布を拡大しており、かつては東京近郊では見られなかったが、現在では定着して発生している。」とあります。やはり温暖化によって北上してきたチョウと言えるでしょう。

私は昭和記念公園や近隣の野川公園などで見ていましたが、井の頭公園付近では2009年に幼虫(食草はススキやジュズなど)、2010年成虫を初めて見ました。目立たないチョウなので、気が付かなかっただけで、もっと以前からいた可能性もあるでしょう。現在はほぼ毎年見られています。

▲井の頭公園で初確認したクロコノマチョウ 2010年9月26日

幼虫はススキやジュズなどにつくと言われていましたが、井の頭公園での発生元はなかなか突き止められませんでした。その後、なんとアシボソでも繁殖していることがわかりました。

▲井の頭公園内(百年森)のアシボソで発見された幼虫と蛹

▲樹液や果実で吸蜜するクロコノマチョウ

偶然こんな場面が見られるとうれしいものです。

●ムラサキツバメ

ムラサキツバメはシジミチョウ科のチョウです。このチョウも、チョウ愛好家以外には、あまり知られていないチョウです。小さいし、翅を閉じていると目立たない茶色だし、花から花へひらひらと飛ぶチョウではないからでしょう。このチョウは、食草のマテバシイでメスを待つか、冬季に越冬場所で探さないとなかなか目にできません。

▲食樹のマテバシイに産卵に来たムラサキツバメのメス 翅に尾状突起がある。

▲翅を開くときれいな青紫色が見えるので、チョウ愛好家に人気

2006年発行の図鑑によれば、分布は「本州(近畿地方以西)・四国・九州」とあります。また、2012年発行の図鑑では、「近年分布を拡大している。2000年代には東京近郊でも各地で見られるようになり、現在は、都市部の公園でも普通に見られる。」とありました。

マテバシイは、ウィキペディアによれば「日本の本州の房総半島南端、紀伊半島、四国、九州から南西諸島に分布し、温暖な沿岸地に自生している。人手によって、寺社の境内や公園などにも植えられている。植栽可能地は、日本では東北地方南部から沖縄の範囲とされ、各地の暖地に植栽されている。マテバシイは葉が大きく密につくため、列植すると遮音性が高まり防音効果が期待され、大気汚染にも強いことから、往来の多い道路沿いに最適な樹種であると言われている。」とあります。

ムラサキツバメはこうした人間の行為に載って北上してきたのではないでしょうか。

 私が井の頭公園で観察を始めたころ、ちょうど「ムラサキツバメがいる」ということが話題になっていたころでした。特に食樹のマテバシイが集中的に生えていた善福寺公園では、幼虫もよく観察できました。井の頭公園内にもマテバシイは植えられているので、探した見たところ、発見できました。

▲井の頭公園のマテバシイ(ひこばえ)にいたムラサキツバメの幼虫 アリが幼虫が出す甘露を舐めとりに来ている。

また、ムラサキツバメは常緑樹の葉の陰で集団越冬するのが特徴で、井の頭公園でも観察できます。でも、春まで同じところで無事越冬するのはなかなか難しいようです。

▲ツバキの葉の隙間で集団越冬するムラサキツバメ この集団もこのままでは春を迎えられなかった。

▲越冬場所近くの花(ビワ・ツバキ)で吸蜜するムラサキツバメ

注意して見ているとこんな場面が見つかることがあります。

クロコノマチョウやムラサキツバメ以外にも、調べてみるとムラサキシジミ・ウラギンシジミ・モンキアゲハ・アオスジアゲハなど、以前は関東地方では見られなかったチョウが近年北上してきたことがわかります。

これらのチョウは、地球温暖化が原因で北上してきたと単純には言えないかもしれません。チョウはその幼虫が食べる草木(食草)が決まっているので、食草がないところでは生息できないし、また逆に食草があれば、どんどん生息域を広げていく可能性があるからです。南方系の樹を植林したり、園芸種を広めるなどの人の営みが影響している場合もあるようです。

こうした私たち人間の営みが生態系を変えていってしまう場合があることは、知っておかなければならない問題です。

文責:takaku