ウチワヤンマは、大きくて腹の先に「うちわ」みたいなものがついているトンボです。井の頭公園ばかりでなく、善福寺公園・石神井公園など、止水系で開けた池なら比較的どこでもいて、よく静止するので見つけるのもたやすいトンボです。

ちょっとめんどくさいのは、名前です。「ヤンマ」と名がついていますが、ヤンマ科のトンボではなく、サナエトンボ科に属するトンボなのです。「ヤンマ」とは大型トンボの意味でつかわれていた言葉らしいのですが、それが科名になったことが問題だと思います。「ヤンマがいた。」という人に、いちいち「ヤンマではなくサナエトンボです。」と説明しなければならず、めんどくさいのです。(あえて「ウチワサナエ」と呼ぶ人もいるようです。)
しかし、なかなか静止しないヤンマ科のトンボと、わりとよく静止するサナエ科のトンボでは、行動観察のポイントが違います。
成熟したウチワヤンマのオスは、水面から突き出した杭や枝先に止まって、メスを待ち、他の大型トンボが飛んでくると追い払うという行動をとります。 いかにもウチワヤンマが好みそうな杭があって、毎年、代が代わっても同じ杭の上にとまっていることが多いのも面白いです。
かいぼり前の井の頭公園のウチワヤンマは、この杭の上によく止まりました。



しかし、そのうちこの杭に止まるウチワヤンマを目にしなくなりました。善福寺や石神井公園ではその後も普通に見られていたのに、どうしたのでしょうか。このころ、井の頭池は外来魚やミシシッピアカミミガメ、アメリがザリガニだらけの池になってしまい、在来の魚とともにトンボのヤゴも減ってしまったらしいのでした。
2014年の冬、かいぼりが始まりました。かいぼり中、池の水を抜いてしまう前に、在来種のレスキューをしたのですが、その中にウチワヤンマのヤゴが見つかりました。絶滅はしていなかったのです。

第1回のかいぼりが終わって、水が戻された2014年の6月、お茶の水池の杭にウチワヤンマがいるのを見つけました!「あのレスキューされたヤゴが羽化したのかも」とうれしい驚きでした。(もちろん、ヤゴはほかにもたくさん生き残っていたのでしょうが。)

池の岸からちょっと離れていますが、その後毎年この新しいポイントにウチワヤンマを見なかった年はありません。




▲2014年以来2022年現在まで、同じ杭で見られるウチワヤンマ
抜け殻もたくさん見られました。


交尾・産卵するウチワヤンマも見られるようになりました。


2018年の最後のかいぼりが終わった7月、池のトンボの数をカウントすると、ウチワヤンマは1日でなんと51頭を数えたのです。
このようにかいぼりの結果爆発的に増えたウチワヤンマでしたが、その後どうなったかというと、なぜかだんだんに減ってきています。(グラフ参照)

この変化は、どう考えたらいいのでしょうか。
一つには、かいぼり直後は、かいぼりに耐えて生き残っていた環境変化に強いトンボが先ず大繁殖し、その後次第に他から移動して来た種などとの競合により、ニッチを分け合うようになって減ってきた。この場合、むしろウチワヤンマの個体数は落ち着いてきたと言えるのかもしれない。
二つ目に考えられることは、グラフからわかるように、ギンヤンマの大繁殖が原因かもしれないということ。池の環境が特にギンヤンマの生息に有利な状態に変わってきて、ニッチをギンヤンマに取って代わられたのかもしれない。
かいぼり後の井の頭池の生態系はまだまだ流動的で、年ごとに変化しているので、今後も継続観察する必要があると思います。
最後に、かいぼり後に特記すべきこととして、2018年と2019年、タイワンウチワヤンマが見られたました。タイワンウチワヤンマは、ウチワヤンマにとてもよく似ていますが、名前の通り、今までは南の国のトンボでした。それが最近関東地方でも見られるようになってきたそうです。

その後確認していませんが、これも注意して見ていく必要があります。
文責:takaku






