「昆虫」カテゴリーアーカイブ

アベリアの花にくる昆虫たち

アベリアは、井の頭公園のああちこちに植えられている園芸品種の低灌木です。コンパクトで好みの大きさに剪定することができるうえに、四季咲きといえるほど長い開花期(5月中旬~10月)や、半常緑でありながら寒さに強いという特徴があり、管理しやすいのかもしれません。

蜜を栄養源にする昆虫たちは、夏場から秋にかけて、他にあまり花が咲いていないような時期に、盛んにこの花を訪れます。

▲アベリアの花の蜜を吸いにきたカラスアゲハ(7月)

過去の例から拾ってみると、いろいろなチョウやガが吸蜜に訪れることがわかります。

夜に活動するスズメガなどもアベリアを訪れています。

ハチの仲間もやってきます。

スズメバチもよく来ます。

これらの昆虫を狙う天敵も潜んでいます。トンボたちもアベリアに来る昆虫を狙って飛び回っています。

蜜を吸う昆虫たちは、だいたい7月~9月ごろにアベリアの花を利用していることがわかります。

ところが最近、樹木の剪定が頻繁に行われ、昆虫たちが花を利用する時期に、花があまり咲かないような状態になってしまいました。

▲2021年9月の様子
2023年夏の状態

今年はこんな状態なので、いつもアベリアで見られるオオスカシバもほとんど現れません。

アベリアは、よく枝を伸ばす植物なので、剪定は必要だと思いますが、この花が一番よく咲く時期に花が咲かないような剪定のしかたは、人の鑑賞という観点からも、生物多様性という観点からも、好ましくないのではないでしょうか。

文責:takaku

ヤブガラシと昆虫

「ヤブガラシとアベリアが一株あれば、たくさんの昆虫が見られるよ。」と、私が小学校の教員をしていたとき、研修会で教えてもらった印象的なことば。その後の井の頭公園での昆虫観察で実感しています。

例えばチョウのアオスジアゲハは、ヤブカラシの花がとりわけ好みのようで、6月~9月ごろまでたびたび訪れるのを目にしてきました。足場がよくて、蜜をすいやすいからかもしれません。

▲ヤブカラシの花の蜜を吸うアオスジアゲハ

アオスジアゲハばかりでなく、ほかのチョウやガもよく来ます。

ヤマトシジミやモンシロチョウも来ていました。

ハチの仲間もたくさん訪れます。ハチは動きが速くてなかなか捉えられませんが、花の蜜を吸っているときはチャンスです。ヤブカラシの花で待っていれば、かなりの種類のハチを観察することができます。

チョウやハチを撮っていると、さらにいろいろな種類の昆虫が目に入ります。

もし、じっと動かない昆虫がいたら、よく見てみると天敵に襲われた個体であることが多いです。アズチグモやムシヒキアブ、オオカマキリなどの捕食性の虫たちは、昆虫がたくさん集まる場所で狩りをすることが多いです。

ヤブガラシには、花ではなく、葉を食べる各種の昆虫やその幼虫も見られます。

このように、ヤブガラシは実に多くの昆虫とつながっている、昆虫の多様性を保証している植物だと言えるでしょう。

しかし、ヤブカラシは繁殖力が強いつる性植物で、庭や公園では植栽の植物を覆いつくし、樹勢を弱らせると考えられています。これが繁茂している場所は、管理されていない荒れた場所と思われやすいです。

実際に、大事な植栽を守るためにヤブガラシを刈り取るのはやむおえないとは思います。しかし、単に景観的に見栄えが悪いというだけだったら、たくさんの昆虫たちのためにぜひ刈り残してほしいと思います。それが生物多様性を保全する手立てになるはずです。

文責:takaku

刈り残しの草地

井の頭公園の三角広場とよばれる場所は、明るく開けた草地があり、草地を好む昆虫たちがよく見られる場所です。しかし、最近草がたびたび刈り取られ、昆虫たちが見られなくなってしまうことがありました。「もし、草地を刈り取らなかったら、これらの昆虫がずっと棲み続けられるのではないか。」と思い、試しに一部刈り残しのエリアを作ってもらうことになりました。

▲三角広場の刈り残しの草地(6月27日の様子)

6月下旬ごろの刈り残しエリアには、まだヒメジョオンの花がたくさん残っていて、イネ科のメヒシバは背丈が低い状態でした。

刈り残しの草地で見つかった昆虫たち

直翅目(バッタの仲間)

まず、イネ科の生える草地を好む直翅目を調べてみました。予想していたショウリョウバッタは、7月上旬ごろから幼虫が数匹目につくようになり、7月末には成虫も確認できました。

▲ショウリョウバッタの幼虫から成虫まで

そのほか、オンブバッタ(幼虫から成虫まで多数)、ヒシバッタ・ノミバッタ、たぶんクビキリギスの幼虫なども見つかった。

イネ科の植物メヒシバが伸びてくると、直翅目以外の昆虫もいろいろ目につくようになりました。これらも、幼虫から成虫までここで育つ様子が観察できました。

また、ヒメジョオンの花にもたくさんの昆虫がやってきました。

アブやハエの仲間もよく見られました。

秋が近づいてくると、イチモンジセセリがやってきて、イネ科植物に産卵もしました。

ヤマトシジミは、草の茂みの中で休憩したり、交尾したりしています。草原は、昆虫たちの隠れ家にもなっているようです。

▲交尾するヤマトシジミ

そして、昆虫たちを捕食する昆虫もやってきました。

サシガメ(昆虫などを捕食するカメムシ)もいました。

特にシオカラトンボはいつもこの草原を低く飛び回り、獲物を探しているようです。また、アジアイトトンボも、草原の小さな小さな生き物をつんつんと捕らえていました。そして、東京都のレッドデータに記載されているミヤマアカネもやってきて、この草原に10日間もど滞在しました。成熟するまでここでエサ取りをしていたようです。

▲ミヤマアカネ

このように刈り残された草原には、実に多様な昆虫たちが生息していることがわかります。

これらの昆虫たちはもちろんここだけでなく、周りの草原にも見られるものが多いのですが、周りでは成長の途中で突然草刈りが行われ、成長が中断されてしまいます。産み付けられた卵や成長途中の幼虫が生きられなくなるのです。

生物多様性を保全するために、ぜひ、このような刈り残しエリアをこれからも作り、広げていってほしいです。

究極の省エネで極寒期を生きるフユシャク

井の頭公園(東京の平地)では、11月後半ぐらいの時期から3月上旬まで、フユシャク(冬尺)と呼ばれる蛾が見られる季節になります。

フユシャクは、シャクガ科に属する蛾の仲間で、分類的にはフユシャク、ナミシャク、エダシャクの三つの亜科が含まれる蛾の総称です。厳寒期に成虫が羽化し、交尾産卵します。卵は樹木や低木の新芽が出る春に孵化し、幼虫はその葉を食べて初夏に蛹になり、晩秋までずっと蛹で過ごします。年1化なので、成虫はこの時期しか見られません。

見かけはとても地味ですが、その独特な生態によって一部愛好家を惹きつける蛾でもあります。

11月後半に先ず出現するのが、クロスジフユエダシャクという名のフユシャクです。ほとんどのフユシャクが夜行性であるのに対して、クロスジフユエダシャクは昼行性なので、昼間にその暮らしぶりを目にすることができます。

写真でわかるように、クロスジフユエダシャクのメスは翅が退化していて、飛ぶことができません。オスは羽化してくるとひたすら地面近くをひらひらと飛び回ります。それは、地面から羽化(翅が退化しているのに羽化というのはちょっと変かもしれない。)してくるメスを探す行動です。メスは、フェロモンを出してオスを呼びます。オスの触覚は櫛状になっていて、そのフェロモンを感知することができます。

運がよければ、オスが急に枯葉の中に潜り込み、翅をバタバタさせるような行動を取るのが見られることがあります。それは、オスがメスを発見した瞬間なのです。

▲交尾
▲擬木柵に産み付けられた卵。ほんとうは樹皮の隙間に産み付けられるようだ。

交尾を終えるとメスは産卵します。卵は緑色のきれいな粒々です。擬木柵に産み付けられるととても目立つので、孵化するまで残っていることはほとんどありません。擬木柵をうろついているメスを樹木の幹に移すと、驚くほどの速さで幹を登っていくので、本来はこうした樹の幹の洞などに産卵するものなのかもしれません。産卵したメスはお腹がしぼんでしまい、やがて命が燃え尽きます。

▲クロスジフユエダシャクの幼虫。蛹になる準備をしている。4月下旬

フユシャクのもう一つの特徴は、食べ物を摂るための口吻も退化していることです。つまり、羽化してからは飲まず食わずでひたすら交尾相手を探し、繁殖するためだけに生きていることになります。

そもそも冬場は蛾の餌となる蜜源も少ないので、多くは休眠している時期です。敢えて探し回っていたずらにエネルギーを消費するよりも、ひたすら繁殖のためだけにエネルギーを使う道を選んでいるのでしょう。そう考えると、メスの翅が退化している利点もわかります。

また、餌が体内にあると、凍結核になってしまうからという説もありました。つまり食べないと耐寒性も増すらしいです。

そして短時間で交尾相手と出会えるように、発生時期を合わせ、発生場所も集中させているように見えます。

私は、井の頭公園で14種ぐらい(見分けに自信がないものもあるので、あえて「ぐらい」としました)のフユシャクを見てきました。これらは少しずつ発生期がずれています。

多くは夜行性なので、もし夜に観察すれば、暗い中でクロスジフユエダシャクと同じような行動を取っているのでしょう。

また、フユシャク亜科に属するフユシャクの♀は、産卵した卵に自分の体の毛を擦り付けてカバーします。そのため産卵後には、とてもみすぼらしい姿になります。

産卵を終えたメスが、命のろうそくが燃え尽きるのを待つように、静かに余生を過ごしている姿もよく見かけます。

究極の省エネで極寒期を生きるフユシャクたちの生き様は興味深いです。

文責:takaku

エゴノキとつながる生き物たち

 エゴノキ(エゴノキ科の落葉小高木)は、井の頭公園にはわりと多い樹木で、花や実が特徴的なので見分けやすいです。私がエゴノキという樹木を認識したのは、いろいろな生き物たちとつながりがあったからでした。

満開の花をつけるエゴノキ

春、若葉が伸び始めたころ、エゴツルクビオトシブミが羽化してきて、葉を巻いて揺籃をつくります。このオトシブミについては、先に記事に書きました。

エゴツルクビオトシブミには、寄生するハチやハエがいます。

戦いオスの足元には、黒い小さな虫がいる。揺籃の中に卵を産み付けようとしているようだ。

伸びてきた葉には虫こぶ(虫えい、ゴールなどともいう)が見られることがあります。虫こぶは昆虫などに寄生されたりして葉に異常が起きてできたものです。

エゴノキで一番目立つ虫こぶはエゴノネコアシと呼ばれるものです。

これは、エゴネコアシアブラムシと呼ばれるアブラムシによってできた虫こぶです。秋に産み付けられた卵が春に孵って、エゴノキの芽を吸汁し始め、新芽は変形して虫こぶができます。7月ごろ有翅虫(翅のある成虫)が生まれ、虫こぶから飛び出して、イネ科のアシボソという草に移動。10月ごろまた翅のあるメスがエゴノキに戻ってオスとメスが産まれ、この雌雄が交尾して卵を産むそうです。複雑な生態ですね。

エゴノネコアシ以外にも、エゴノキの葉には、様々な虫こぶができます。

これらの中の1つを切って中を見ると、ウジ型の幼虫が入っていました。タマバエの一種だと思われます。

黄色いウジ型の幼虫

ネットで調べると、アブラムシ・タマバエのほかにキジラミの仲間もエゴノキに虫こぶを作るそうです。さらに、こうした虫こぶのなかの昆虫に寄生するハチもいるようです。

エゴノキは5月ごろ白い小さな花を咲かせます。この花を好んで訪れる昆虫はハチの仲間です。(下向きの花のため、脚の力の弱いハエやアブは止まることができない。)

これらのハチたちは、体に花粉をつけて別の花のめしべに運び受粉させ、実を成らせます。

こうしたポリネーターたちのおかげで、7月ごろには、白い丸い実がたくさんなります。その時期を待っていたように現れるのが、エゴヒゲナガゾウムシです。

目が左右に突き出た不思議な顔をしたこの虫を初めて見たときは、ほんとうにびっくりして、いろいろ調べたり、みんなに紹介したりしたものです。

このゾウムシは、エゴノキの実の中に産卵し、幼虫は種の部分を食べて育ちます。オスは飛び出た目の顔をぶつけ合ってライバルと戦います。

エゴヒゲナガゾウムシとエゴツルクビオトシブミは、私のお気に入りの昆虫で、毎年「そろそろ出てくるころだ。」と探し始め、いろいろ新しい発見もありました。また、ついでに虫こぶに気づいたり、他の虫が目に入ったりもしました。

今年の発見は、シロテンクロマイコガという蛾です。この蛾は以前からたびたび目にはしてきたのですが、なぜかエゴノキで見ることが多いことに気づき、エゴノキの実に産卵しているのではないかと思うに至りました。

特徴のある飾り翅を持つシロテンクロマイコガ。くるくる回るように動くので「舞子蛾」というらしい。

秋も深まると、この実を食べにくる野鳥が現れます。シジュウカラ、キジバトなどが食べに来るのを見たことがあります。

エゴノキの実を食べるキジバト

しかし、なんといっても一番多く訪れるのはヤマガラです。エゴノキの実には、有毒なサポニン(エゴサポニン)が含まれているのですが、ヤマガラは両足で実をはさみつけ、器用にくちばしでつついて有毒な果皮を割り、中の種子だけを取り出します。(毒成分は種の成熟期には弱まるという説もありました。)

ヤマガラは、その場で食べるときもありますが、実を幹の割れ目や朽木、地面などに埋め込んで貯える習性(貯食)があります。餌が少なくなった冬の時期に取り出して食べたり、翌年の繁殖期にヒナに与えるエサとして使われたりします。

エゴノキの実を採るヤマガラ

貯食されたまま取り残された実は、発芽して新たなエゴノキに生長していくのでしょう。なお、ヤマガラによって果皮が除去されたエゴノキの種子は、果皮がついたままよりも発芽率が高いそうです。

知人は、落下したエゴノキの実を割って調べたところ、その半数以上の中にエゴヒゲナガゾウムシの幼虫が入っていたと言っていました。ヤマガラは、その幼虫も食べるらしいです。結果、エゴヒゲナガゾウムシが大量に増えるのを防いでもいることになります。

こうして、エゴノキという1種の樹木をざっと見ただけでも、多くの生きものがかかわっていることがわかりました。また、その生き物とつながる別の生きものがいて、食物網が形成されているわけです。

さらに、別種の樹木たちも、それぞれ別の生きものとつながっているのだと考えると、生態系の複雑さは、改めて驚きを感じます。

文責:takaku

かいぼりとウチワヤンマ

ウチワヤンマは、大きくて腹の先に「うちわ」みたいなものがついているトンボです。井の頭公園ばかりでなく、善福寺公園・石神井公園など、止水系で開けた池なら比較的どこでもいて、よく静止するので見つけるのもたやすいトンボです。

ウチワヤンマ 2019年9日 井の頭池にて

ちょっとめんどくさいのは、名前です。「ヤンマ」と名がついていますが、ヤンマ科のトンボではなく、サナエトンボ科に属するトンボなのです。「ヤンマ」とは大型トンボの意味でつかわれていた言葉らしいのですが、それが科名になったことが問題だと思います。「ヤンマがいた。」という人に、いちいち「ヤンマではなくサナエトンボです。」と説明しなければならず、めんどくさいのです。(あえて「ウチワサナエ」と呼ぶ人もいるようです。)

しかし、なかなか静止しないヤンマ科のトンボと、わりとよく静止するサナエ科のトンボでは、行動観察のポイントが違います。

成熟したウチワヤンマのオスは、水面から突き出した杭や枝先に止まって、メスを待ち、他の大型トンボが飛んでくると追い払うという行動をとります。 いかにもウチワヤンマが好みそうな杭があって、毎年、代が代わっても同じ杭の上にとまっていることが多いのも面白いです。

かいぼり前の井の頭公園のウチワヤンマは、この杭の上によく止まりました。

2007年7月3日 井の頭公園弁天池のウチワヤンマ

しかし、そのうちこの杭に止まるウチワヤンマを目にしなくなりました。善福寺や石神井公園ではその後も普通に見られていたのに、どうしたのでしょうか。このころ、井の頭池は外来魚やミシシッピアカミミガメ、アメリがザリガニだらけの池になってしまい、在来の魚とともにトンボのヤゴも減ってしまったらしいのでした。

2014年の冬、かいぼりが始まりました。かいぼり中、池の水を抜いてしまう前に、在来種のレスキューをしたのですが、その中にウチワヤンマのヤゴが見つかりました。絶滅はしていなかったのです。

▲かいぼり中のガサガサで、お茶の水池から見つかったウチワヤンマのヤゴ

第1回のかいぼりが終わって、水が戻された2014年の6月、お茶の水池の杭にウチワヤンマがいるのを見つけました!「あのレスキューされたヤゴが羽化したのかも」とうれしい驚きでした。(もちろん、ヤゴはほかにもたくさん生き残っていたのでしょうが。)

▲2014年6月19日 お茶の水池の杭に止まるウチワヤンマ

池の岸からちょっと離れていますが、その後毎年この新しいポイントにウチワヤンマを見なかった年はありません。

▲2014年以来2022年現在まで、同じ杭で見られるウチワヤンマ

抜け殻もたくさん見られました。

交尾・産卵するウチワヤンマも見られるようになりました。

2018年の最後のかいぼりが終わった7月、池のトンボの数をカウントすると、ウチワヤンマは1日でなんと51頭を数えたのです。

このようにかいぼりの結果爆発的に増えたウチワヤンマでしたが、その後どうなったかというと、なぜかだんだんに減ってきています。(グラフ参照)

この変化は、どう考えたらいいのでしょうか。

一つには、かいぼり直後は、かいぼりに耐えて生き残っていた環境変化に強いトンボが先ず大繁殖し、その後次第に他から移動して来た種などとの競合により、ニッチを分け合うようになって減ってきた。この場合、むしろウチワヤンマの個体数は落ち着いてきたと言えるのかもしれない。

二つ目に考えられることは、グラフからわかるように、ギンヤンマの大繁殖が原因かもしれないということ。池の環境が特にギンヤンマの生息に有利な状態に変わってきて、ニッチをギンヤンマに取って代わられたのかもしれない。

かいぼり後の井の頭池の生態系はまだまだ流動的で、年ごとに変化しているので、今後も継続観察する必要があると思います。

最後に、かいぼり後に特記すべきこととして、2018年と2019年、タイワンウチワヤンマが見られたました。タイワンウチワヤンマは、ウチワヤンマにとてもよく似ていますが、名前の通り、今までは南の国のトンボでした。それが最近関東地方でも見られるようになってきたそうです。

▲2019年9月25日 牧野氏撮影

その後確認していませんが、これも注意して見ていく必要があります。

文責:takaku

ダイミョウセセリがレッドデータに!

もうすぐ8月も終わる時期の今、草が思い切り生えた公園の一角で、ダイミョウセセリを見ました。あたりにたくさん生えているキツネノマゴという小さな花の蜜を吸っているようです。翅がかなり痛んでいるようですが、それがたくましく生き抜いてきた勲章のようにも見えます。

ダイミョウセセリは、セセリチョウ科のチョウですが、モンシロチョウなどのようにひらひらと飛ぶチョウではなく、英名をskipperという通り、直線的に素早く次の花に飛び移ります。こげ茶色に白い斑紋がちりばめられた地味な色合いで、翅を開いて止まることが多いチョウなので、ガ(蛾)と間違えられる時もあります。(分類的にもガに近いチョウらしいです。)

このダイミョウセセリをなぜ取り上げたかというと、実は「東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)2020年版」(略称「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」)が2021年末に発表されましたが、このダイミョウセセリが新たに東京都区部でVU(絶滅危惧Ⅱ類)になっていたからです。井の頭近辺ではダイミョウセセリはごく普通に見られるチョウという印象だったので、びっくりしました。

ダイミョウセセリは、区部でなぜ絶滅危惧種になったのでしょうか。

井の頭公園(三鷹市・武蔵野市にまたがる)は、北多摩区域なので、今のところレッドデータのランク外ですが、区部に隣接する公園なので、区部の二の舞にならないようにしたいものです。

成虫は、4月から10月ごろまで四季折々の野草や花壇の花によく現れます。特に花のえり好みなく吸蜜するし、時には鳥の糞などを吸い取ることもあります。

春ハルジョオンが咲くころ第1化の成虫が現れる。

幼虫の食草は、ヤマノイモ科(ヤマノイモやオニドコロ等)です。チョウは食草に卵を産み付けると、自分の毛を卵に擦り付けて保護します。

幼虫は、葉に切り込みを入れ、折り曲げて糸で綴り、その中に潜んで暮らします。幼虫巣と呼ばれます。成長して体が大きくなると巣を移動して新たに大きな幼虫巣を作ります。そして幼虫巣の中で蛹になります。

▲ヤマノイモ科の葉を食べる幼虫(雑音あり。ミュートしてください。)

冬は、幼虫の姿で越冬。幼虫巣がついた葉は、冬には落葉します。幼虫はそのまま巣の中で冬を越し、春に蛹になります。(越冬巣)

ダイミョウセセリが絶滅危惧種になる理由は、どうもこのヤマノイモ科での繁殖の仕方にあるように思います。

食草のヤマノイモはどんなところにはえているのでしょうか。幼虫巣をたよりに、ダイミョウセセリが産卵場所として選んだ場所を探してみると、こんな場所です。

左は、井の頭公園に隣接する住宅街区域の玉川上水縁。つるが絡み合って歩道に進出したり、時には樹木を覆うほどに伸びていることもあります。そして、ときどき刈り取られてしまいます。

これが茂る場所は、他のつる性植物(ヤブカラシ・カラスウリ・ヘクソカズラ等)も絡んでいることが多く、手入れされていない荒廃した場所と感じられやすいのでしょう。特に、きれいに手入れされた状態を好む人が多い街中や住宅街では好まれない景観なのだろうと思います。

このフェンスは今老朽化していて、作り直すという問題も起きています。新しいフェンスがどのようなものになるかによって、ここもダイミョウセセリの生息場所ではなくなるかもしれません。

また、越冬巣がついた落ち葉は、しばしばきれいに掃き集められ、ゴミ収集車の中に放り込まれるのを目にしてきました。

ダイミョウセセリが絶滅危惧種にならないようにするためには、食草の適切な管理、落ち葉の処理の仕方等が大事だと思うのです。

文責:Takaku

南から来たチョウたち④ クロコノマチョウ他

●クロコノマチョウ

クロコノマチョウはツマグロヒョウモンやナガサキアゲハと比べると、地味なチョウ(タテハチョウ科)です。花にも来ないし、落ち葉の上などに止まっていると、見事なカモフラージュとなって、目に入りません。成虫で越冬するので、冬に落ち葉の上を歩いていると、いきなり飛び出したりして気づくことが多いです。

▲枯葉の上にとまるクロコノマチョウ 

このチョウも、例えば2006年発行の図鑑によれば、分布は「本州(千葉県以西の沿岸地域)・四国・九州」とあります。2012年発行の図鑑では、「分布を拡大しており、かつては東京近郊では見られなかったが、現在では定着して発生している。」とあります。やはり温暖化によって北上してきたチョウと言えるでしょう。

私は昭和記念公園や近隣の野川公園などで見ていましたが、井の頭公園付近では2009年に幼虫(食草はススキやジュズなど)、2010年成虫を初めて見ました。目立たないチョウなので、気が付かなかっただけで、もっと以前からいた可能性もあるでしょう。現在はほぼ毎年見られています。

▲井の頭公園で初確認したクロコノマチョウ 2010年9月26日

幼虫はススキやジュズなどにつくと言われていましたが、井の頭公園での発生元はなかなか突き止められませんでした。その後、なんとアシボソでも繁殖していることがわかりました。

▲井の頭公園内(百年森)のアシボソで発見された幼虫と蛹

▲樹液や果実で吸蜜するクロコノマチョウ

偶然こんな場面が見られるとうれしいものです。

●ムラサキツバメ

ムラサキツバメはシジミチョウ科のチョウです。このチョウも、チョウ愛好家以外には、あまり知られていないチョウです。小さいし、翅を閉じていると目立たない茶色だし、花から花へひらひらと飛ぶチョウではないからでしょう。このチョウは、食草のマテバシイでメスを待つか、冬季に越冬場所で探さないとなかなか目にできません。

▲食樹のマテバシイに産卵に来たムラサキツバメのメス 翅に尾状突起がある。

▲翅を開くときれいな青紫色が見えるので、チョウ愛好家に人気

2006年発行の図鑑によれば、分布は「本州(近畿地方以西)・四国・九州」とあります。また、2012年発行の図鑑では、「近年分布を拡大している。2000年代には東京近郊でも各地で見られるようになり、現在は、都市部の公園でも普通に見られる。」とありました。

マテバシイは、ウィキペディアによれば「日本の本州の房総半島南端、紀伊半島、四国、九州から南西諸島に分布し、温暖な沿岸地に自生している。人手によって、寺社の境内や公園などにも植えられている。植栽可能地は、日本では東北地方南部から沖縄の範囲とされ、各地の暖地に植栽されている。マテバシイは葉が大きく密につくため、列植すると遮音性が高まり防音効果が期待され、大気汚染にも強いことから、往来の多い道路沿いに最適な樹種であると言われている。」とあります。

ムラサキツバメはこうした人間の行為に載って北上してきたのではないでしょうか。

 私が井の頭公園で観察を始めたころ、ちょうど「ムラサキツバメがいる」ということが話題になっていたころでした。特に食樹のマテバシイが集中的に生えていた善福寺公園では、幼虫もよく観察できました。井の頭公園内にもマテバシイは植えられているので、探した見たところ、発見できました。

▲井の頭公園のマテバシイ(ひこばえ)にいたムラサキツバメの幼虫 アリが幼虫が出す甘露を舐めとりに来ている。

また、ムラサキツバメは常緑樹の葉の陰で集団越冬するのが特徴で、井の頭公園でも観察できます。でも、春まで同じところで無事越冬するのはなかなか難しいようです。

▲ツバキの葉の隙間で集団越冬するムラサキツバメ この集団もこのままでは春を迎えられなかった。

▲越冬場所近くの花(ビワ・ツバキ)で吸蜜するムラサキツバメ

注意して見ているとこんな場面が見つかることがあります。

クロコノマチョウやムラサキツバメ以外にも、調べてみるとムラサキシジミ・ウラギンシジミ・モンキアゲハ・アオスジアゲハなど、以前は関東地方では見られなかったチョウが近年北上してきたことがわかります。

これらのチョウは、地球温暖化が原因で北上してきたと単純には言えないかもしれません。チョウはその幼虫が食べる草木(食草)が決まっているので、食草がないところでは生息できないし、また逆に食草があれば、どんどん生息域を広げていく可能性があるからです。南方系の樹を植林したり、園芸種を広めるなどの人の営みが影響している場合もあるようです。

こうした私たち人間の営みが生態系を変えていってしまう場合があることは、知っておかなければならない問題です。

文責:takaku

南から来たチョウたち③ ナガサキアゲハの場合

私は2004年9月25日に井の頭公園内でナガサキアゲハを始めて確認しました。このチョウもツマグロヒョウモンと同じく、以前は関東では見られない南国のチョウだったので、「ついに井の頭公園にも現れたのか。」と夢中で写真を撮りました。

▲私が井の頭公園内で最初に見たナガサキアゲハ 2004年9月25日

東京でナガサキアゲハが見らるということは当時はニュースにもなる出来事だったので、新聞記事になったりもしました。

▲朝日新聞地方版の記事 2006年10月28日

また、温暖化とナガサキアゲハの北上の関係を検証したレポートも発表されました。

温暖化ウォッチ(14)チョウの分布域北上現象と温暖化の関係 (nies.go.jp)

その後ナガサキアゲハは、井の頭公園内でもすっかり定着し普通種になり、園内での繁殖も確認しました。

▲園内で交尾するナガサキアゲハのペアと園内のミカンの樹で育つ幼虫

ところで、ナガサキアゲハは、とても大きなアゲハチョウの仲間ですが、オスとメスの翅の模様がかなり違い、メスの方が目立ちます。また、尾状突起がないという、アゲハにしてはちょっと特殊な形をしています。

▲ナガサキアゲハのメス 尾状突起がなく、下翅に白と赤の大きな斑紋が目立つ。

▲ナガサキアゲハのオス 表から見るとほとんど真っ黒、下翅の裏にかすかに斑紋がある。

この尾状突起のないナガサキアゲハをすっかり見慣れたころ、さらに驚く情報が入りました。

2018年、親交のあるチョウ愛好家の方が、なんと尾状突起のあるナガサキアゲハを井の頭公園で見つけられ、写真を送ってくれました。許可を得て私個人のブログで紹介したところ、もう一方、井の頭で写真を撮っている方が、2017年の写真も提供してくれました。

▲2017年、2018年に井の頭公園内で撮られた尾状突起のあるナガサキアゲハ 

有尾型は、とても派手で、いかにも南国のチョウという印象です。この尾状突起も、メスだけに現れるそうです。

このタイプのナガサキアゲハは、東南アジアなどの南方に多く、日本では少ないらしいのですが、それでも時々関東地方でも見られる例があるそうです。(その後有尾型が井の頭公園にいるという情報は耳にしていません。)

有尾型は、ツマグロヒョウモンと同様に、ベイツ型擬態によるもので、モデルは南国のチョウ、オオベニモンアゲハと言われています。これに対して今関東地方に生息している尾状突起のないナガサキアゲハは非擬態型というそうです。

オオベニモンアゲハは見たことがないので、参考までに南西諸島で撮ったベニモンアゲハ(これも毒蝶)を掲載しておきます。

ちょっとジャコウアゲハ(毒蝶)とモンキアゲハが混ざったような感じですね。

今後、この有尾型のナガサキアゲハが井の頭公園に定着するような状況になるのでしょうか。

文責:takaku

南から来たチョウたち② ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモンは現在、井の頭公園で普通に見られるチョウ(タテハチョウ科)です。

▲井の頭公園で見るツマグロヒョウモン。オス(左)とメス(右)メスの翅の先(褄)が黒い。

しかし、20年以上前にはこのチョウは東京にはいませんでした。

以前、ネット上で交流していた四国在住の方のお庭に、とても華やかな見知らぬチョウが来ているのを写真で見て、何だろうと調べてみたことがあります。当時、ツマグロヒョウモンの分布は「三重県以西」とありました。「東京では見られないチョウなのだ、いつか南の地方へ行って、こんなチョウを一度は見てみたい」とあこがれました。

その後2004年、私は東京の公園で初めてツマグロヒョウモンを目にしました。信じられなくて、とてもびっくりして、何枚も何枚もシャッターを切ってしまいました。 南国へ行かなくても、南国のチョウが見られたのです。でも、結局ツマグロヒョウモンが東京で見られるのは、温暖化のせいらしいと知って複雑な気持ちになりました。

私が井の頭公園でもツマグロヒョウモンを確認したのは、2005年です。

▲アベリアの花で吸蜜するツマグロヒョウモンのオス 2005年10月1日 井の頭公園

井の頭公園では、その後すっかり定着し、また、新聞紙上などでもこのチョウが関東地方へ進出してきたことはよく話題になりました。

今、ツマグロヒョウモンは公園で見ても、シャッターを押す気持ちにもならないほどありふれたチョウになってしまいました。そして、はるばる南国へ行って目にしても、「ツマグロヒョウモンが見られて、南国へ来たかいがあった。」という感慨もなくなってしまいました。東京のチョウ世界の原風景が変わってしまったという寂しさも感じます。環境の多様性が失われ、世界が均一化してしまった感じです。

ヒョウモンチョウの多くはスミレを食草としていますが、ツマグロヒョウモンは園芸種のパンジーなどを好むらしく、飛来したころは個人宅に庭のパンジーに産卵しているのがよく見られました。けれど、最近は公園の野草のタチツボスミレにもよく産卵しています。すでに環境にうまく適応し始めているということでしょうか。

▲井の頭公園や隣接する個人宅で見られるツマグロヒョウモンの生活史

ツマグロヒョウモンの謎として、オスとメスの違いがあります。メスだけが褄が黒いのですが、これは、南方の毒蝶カバマダラに擬態(ベイツ型)していると言われています。なぜ、メスだけが擬態しているのか、カバマダラのいない関東で、この擬態は果たして生存に優位に働くのか、 いろいろ議論されているようです。

▲関東地方の湾岸部に飛来したカバマダラ

実は、カバマダラは、ときどき関東地方の沿岸部に飛来して話題になったことがありました。これもそのうち定着したりするのでしょうか。

ツマグロヒョウモンは、私にとっては、昆虫と地球温暖化の関係に気づかせてくれたチョウです。「なんだツマグロヒョウモンか」などと思わず、今後の成り行きを注視していかなければなりませんね。

※ここでいうチョウのベイツ型擬態とは、鳥類などの捕食者に対して無毒でおいしい種(例:ツマグロヒョウモン)が、有毒で嫌な味のする種(例:カバマダラ)の外観、形、行動を模倣することによって捕食を逃れる現象です。

文責:Takaku