「昆虫」カテゴリーアーカイブ

南から来たチョウたち ①

昨年(2021年)の10月のこと。井の頭公園内のセイタカアワダチソウに吸蜜に来たウラナミシジミを撮っていたとき、撮った写真をよく見ると、ウラナミシジミとは違っていました。しかし前に見たことがあるチョウのような気もします。そこで思いついたある名前をスマホでチェックしてみました。(便利な時代になったものです。)やはり、そのチョウは予想どおり「クロマダラソテツシジミ」でした。

▲井の頭公園に現れたクロマダラソテツシジミ 2011年10月26日
▲翅を開いたところ 同日同場所

私が持っている図鑑「蝶」(新装版山渓フィールドブックス)2006年初版発行には、クロマダラソテツシジミは掲載されていません。もう1冊最近購入した「フィールドガイド日本の蝶」(日本チョウ類保全協会編、誠文堂新光社刊)2012年発行には、「かつては国内に生息せず、1992年に沖縄島で初記録。近年は南西諸島や九州南部で定着。強い分散力と植栽による移動で、関東まで発生することもある。」と書かれています。つまり、クロマダラソテツシジミは、外来種として一旦沖縄入って定着し、それから暫時北上してきたチョウのようです。

このチョウの幼虫の食草は名前の通りソテツです。私も実は沖縄に行ったとき見たことがあるし、2016年には東京都の港湾部で観察したことがありますが、そこにはソテツがたくさん植えられていました。

ウィキペディアによれば、ソテツは

「日本列島に自生する唯一の種で、自然分布では日本列島の固有種である。日本列島の九州南端、南西諸島、台湾、中国大陸南部に分布する。主として海岸近くの岩場に生育する。なお、自生北限は宮崎県串間市都井岬である。本州には自生しないが、ある程度の寒さに耐え、異国情緒を醸す庭園樹になることから、寺社、庭園、市役所前のロータリーなど、各地で植えられている。」

とあります。

私が東京都でクロマダラソテツシジミ(成虫・幼虫)を、見たのはまさにそうした場所だったようです。

▲ソテツの葉を食べる幼虫たち 2016年11月2日 東京都港湾部にて

実は、この年2021年には新宿御苑にクロマダラソテツシジミが現れ、御苑のソテツに被害を与えているという話を聞いたばかりでした。内陸にも進出しているようです。

そこで、クロマダラソテツシジミが見られた井の頭公園近辺の植栽を調べてみると、とある一軒のお庭にソテツが植えられていました。

井の頭公園ではたぶん初記録だったのではないかと思いますが、今後定着するかどうかはわかりません。冬越しができるか、食草のソテツが十分あるかが鍵になりそうです。

ソテツが植えられているところは要注意です。

私が井の頭公園でチョウを観察し始めてからたかだか20年未満ですが、その間にも、クロマダラソテツシジミのように、以前にはいなかった南方系のチョウが次々と現れるのを目の当たりにしてきました。その記録を残しておきたいと思います。

つづく

文責:Takaku

ムスジイトトンボの大繁殖

 井の頭池は2014~2018年に3回のかいぼりが行われました。かいぼりの一番の目的は外来魚のブラックバス・ブルーギル等を駆除することでした。1回目のかいぼりが終わった後の2014年夏、池を観察していると、かいぼり直前にはほとんど見られなかったウチワヤンマ・コフキトンボ(帯型のメス)・チョウトンボなどがいるのに気が付きました。「かいぼりによってトンボも増える」と実感したのです。

その実感を確かめるため、3回目のかいぼりが終わった2018年から、井の頭かんさつ会と発足したばかりの井の頭 自然の会の有志メンバーで池のトンボ調査をすることになりました。

翌2019年5月のこと、自然の会のメンバーが、今まで井の頭池で見たことがなかったイトトンボの写真を撮ってくれました。調べてみると、眼後紋の形、背の黒い線の中に白い斑紋がある、腹端の二節の青い部分の様子などから「ムスジイトトンボ」(♂)とわかりました。

▲自然の会のメンバーが撮ったムスジイトトンボの♂ 2019年5月20日

次いで、井の頭かんさつ会の田中利秋さんが、5月25日に不明イトトンボのヤゴ゙を発見、6月2日に羽化したイトトンボの写真を見せてくれました。それはムスジイトトンボのメスでした。

▲田中さんが井の頭池で見つけたヤゴ(2019年5月25日)

このことから、ムスジイトトンボはかいぼりが終わった2018年には井の頭池に現れ、産卵していたのだと推測されます。パイオニア的な性質が強いトンボなのかもしれません。

地元の公園の池は、かいぼり後に復活したツツイトモが盛大に繁茂するようになり、ムスジイトトンボ(のオス)はそのツツイトモの上に止まっていることが多かったです。イトモが消失した場所や時期には、ムスジイトトンボも見えなくなりました。

▲藻の上にとまるムスジイトトンボの♂ 時々飛んではメスを探す。

8月に入ると、池の周りから見渡す限り、ムスジイトトンボが乱舞するようになりました。

イトモの上を飛び回る♂、交尾・産卵するペアが数えきれないくらいです。池回りから見える範囲のムスジイトトンボの数を数えた結果、500匹を越えていました。

▲水面に浮かぶ葉や水草に静止してで交尾するムスジイトトンボのペア
▲連結状態で産卵するメス。水草の組織内に卵を産み付けるメスは、時に完全に水中に潜ってしまうこともある。

過去の井の頭池のトンボ調査の記録をいろいろ調べてみましたが、ムスジイトトンボがいたという記録はみつかりませんでした。

「日本のトンボ」(尾崎暁・川島逸郎・二橋亮著 文一総合 2012年初版発行)で分布図を見ると、関西以南が中心で、海岸線に沿って広がっています。そして、「近年関東地方などでは分布域が北上している。」とありました。また、ヤゴの生息環境は「平地の浮葉植物や沈水植物が繁茂する開放的な池沼」ともあります。別の本では「クロイトトンボ属の中で、もっとも暖地に分布しているイトトンボです。」という記述も目にしました。

井の頭池はかいぼり後、埋土種子から水草が大繁茂するようになりました。また、近年の夏の猛暑なども、ムスジイトトンボの絶好の繁殖条件になったのでしょう。

2020年、2021年も、ムスジイトトンボの数は減るどころか、増える一方です。最近の調査では、1回に1000匹以上を数えるほどになりました。今後どのように推移していくのでしょうか。

▲池回りの杭にイトトンボのヤゴの抜け殻が多数。いかに多く羽化したかわかる。

かいぼりによって井の頭池のトンボの種数も個体数も増えたことは間違いありません。けれど、それは以前にいたトンボがみんな個体数を増やしたというわけでもなく、一度絶えたトンボが復活したわけでもなく、全く新しいトンボが一番増えたわけです。

「かいぼりによってトンボが増えた、よかったよかった。」で終わるのではなく、これからの井の頭池をどう保全していくのか、こういうトンボの生息状況もよく分析して考えていく必要があると感じました。

文責:Takaku

ヤブヤンマの大発生

2018年5月10日のこと、野鳥カメラマンたちが小鳥の森でトンボの写真を撮っているのに遭遇しました。何だろうと見ると、ヤブヤンマのようです。

▲羽化中のヤブヤンマ

2頭いて、どちらもヤゴの抜け殻の傍にぶら下がっています。すでに腹も伸び翅もきれいに広がっていますが、ここで羽化した個体に違いありません。あたりを探してみると別の場所にヤゴの抜け殻があと2つ見つかったので、少し前から発生が始まっていたのでしょう。

▲次々と羽化するヤブヤンマ

その後気になって時々チェックしてみると、驚いたことにヤブヤンマの羽化は次々と続き、7月8日までの間に私が確認しただけで20頭以上が羽化していました。羽化したもの以外にも、フェンスや草などにヤゴの抜け殻がたくさんついています。全部を総合すると、この池から羽化したヤブヤンマは少なく見積もっても50頭はいたようです。

▲あちこちに抜け殻が。

羽化したてのヤブヤンマは未成熟で、成熟するまで別の場所へ移動して餌などを捕っていると思われます。近くの広場で大きめのヤンマが飛び回っているのを目にしたことがあるので、それがここで羽化したヤブヤンマだったのかもしれません。

6月も下旬ごろになると、池を周遊するヤブヤンマの姿が見えるようになりました。成熟したオスがメスを探しに来たり、メスが産卵しに来たりしているようでした。

盛夏の時期のヤブヤンマは、日中猛暑を避けて暗い樹林の中で休憩し、涼しくなった夕方、黄昏飛翔をします。成熟したきれいなオスが休んでいる姿も見られました。

▲青い目が美しい成熟したオス

ヤブヤンマはそれほど珍しいトンボというわけではありませんが、この池からの発生は初確認でした。また1か所からこれほど大量に発生したということにも驚かされました。

こんな小さな池に50匹ものヤブヤンマが羽化してきたのはなぜなのでしょうか。

この池は、数年前に野鳥の水場として新しく作られた小さな人工的な池です。初めは生き物など何もいなかったのですが、そのうち春になるとユスリカの仲間が大発生したり、カゲロウやトビケラの仲間がたくさん羽化してくるようになりました。

▲水場のフェンスに止まるユスリカ・カゲロウ・トビケラの仲間

たぶん、そこへヤブヤンマのパイオニア・メスがやってきて産卵したのでしょう。餌のユスリカやカゲロウの幼虫はたくさんいて、競争相手も天敵もいない状態だったので、産み付けられた卵の生存率が非常に高かったのだろうと推測されます。また、周りの環境もヤブヤンマの好みに合っていたに違いありません。

この大発生は、続くのでしょうか。その後、2019年~2021年と観察を続けていくと、予想はしていましたが、発生数は年々半減していきました。今年はまだ見ていません。(見られるといいのですが。)

発生数が減少していった要因は何でしょうか。一つは天敵です。冬の間、カメラマンが、キセキレイなどがヤゴを捕食している写真を撮っていました。カルガモも居つくようになり、カメ(アカミミガメを捨てていった人もいたようで、これが居ついたらヤゴたちは全滅するかもしれません。)も見かけました。

もう一つは競争相手です。この池にはその後、オオアオイトトンボ・リスアカネ・マユタテアカネ・オオシオカラトンボ、そしてクロスジギンヤンマも現れ、産卵するようになりました。それらのトンボのヤゴたちが餌をめぐって競合するようにもなっているはずです。

環境に変化が起きると、生物相がどのように変わっていくのかがよくわかるケースでした。

文責:takaku

外来種の蝶アカボシゴマダラの出現

2022年5月14日、今季のアカボシゴマダラを初見しました。しかし、アカボシゴマダラは昔から井の頭公園で見られていたチョウではありません。

私が初めてアカボシゴマダラの存在を確認したのは、2008年のことでした。その年、私はゴマダラチョウの観察に夢中になっていました。

そしてある日、無事に羽化したチョウを見て、翅の模様が何か変だなと思いました。

▲2008年5月25日に羽化したチョウ

▲ゴマダラチョウの翅

そして頭に浮かんだのが、少し前に見た新聞記事です。

▲2008年2月18日の朝日新聞の記事

この羽化したチョウは、ゴマダラチョウではなく、人為的に放蝶された中国産の外来種アカボシゴマダラだったのです

この後、知り合いから次々に連絡が来ました。「オオゴマダラのような白い大きなチョウが飛んでいた。嵐に吹き飛ばされてきたのだろうか。」「図鑑に載っていない白いチョウが死んでいたが、何ですか。」など。

アカボシゴマダラは日本では奄美大島のみに生息していて、絶滅危惧種です。それは図鑑にも載っていて、名前の通り翅に赤い星があるのが特徴だとあります。しかし、春型(春に羽化するもの)には、この赤い星がないことが多いのです。(2化目以降は、はっきり赤い星がでます。)図鑑には赤星がついているものしか載っていないので、調べてもわからなかったのです。

▲赤星のあるアカボシゴマダラ

また、アカボシゴマダラとゴマダラチョウは、幼虫や蛹もよく似ています。

背中の突起が3対か4対かで区別します。

▲左:ゴマダラチョウ 右:アカボシゴマダラ
▲左:ゴマダラチョウ 右:アカボシゴマダラ

新聞にもある通り、東京都では2007年に成虫が侵入したらしいので、それが産んだ新生個体が2008年に一斉に羽化し、人々を驚かせたわけでしょう。この年の初夏の井の頭公園は、この大きな白いチョウがたくさんひらひら飛んで人々の眼をひき、驚かせました。

以来、井の頭公園では現在まで、アカボシゴマダラは毎年必ず見られる優勢種となりました。

アカボシゴマダラは今、「特定外来生物」に指定されていますが、一度放蝶して広がってしまったものを、元に戻すことはとても難しいです。

アカボシゴマダラは、エノキの葉を食草として育ちますが、エノキには在来のゴマダラチョウ(生活史がアカボシゴマダラとほとんど同じ)のほか、テングチョウ・ヒオドシチョウなども産卵します。アカボシゴマダラの侵入はこれらの蝶の生息環境を脅かすのでしょうか。生態系全体にどんな影響を与えるのでしょうか。いろいろな推測がされていますが、今はまだはっきりとは確認されていません。

これからも注意深く観察を続けていくしかないと思います。

※このチョウ(卵・幼虫・成虫とも)を持ち帰って他所に放蝶してはいけないことになっています。

文責:takaku

 

エゴツルクビオトシブミ(驚異の本能とその限界)

井の頭公園では毎年、エゴノキ(あるいはハクウンボク)の若葉が伸び始めた4月中旬ごろから、筒状に巻まかれた葉がいくつもぶら下がっているのを目にすることができます。これは、エゴツルクビオトシブミという甲虫(ゾウムシの仲間)が作った「落とし文」(揺籃)です。

▲エゴノキにぶら下がる揺籃(落とし文)

「落とし文」とは、密かに渡すために道端に落として相手に拾ってもらう手紙のことです。つまり巻いた揺籃を切り離して地面に落としたものを手紙に見立てたわけですが、エゴツルクビオトシブミは揺籃を切り離さないで「吊るし文」にしていることが多く、見つけやすいのです。

この葉を広げてみるともっとも内側に卵が1個だけ生みつけられているのが分かります。揺籃の中で孵化した幼虫は内部の葉を食べて成虫にまで育ちます。揺籃は外敵から守るシェルターであり、食料でもあるのです。

▲揺籃の中に産み付けられた卵

揺籃がついたエゴノキをよく見ると、揺籃の作り主、エゴツルクビオトシブミが見つかります。

▲エゴツルクビオトシブミのメス(左)とメス(オス)。オスの長い首(ツルクビ)が特徴。メス(右)の首は長くない。体長5~7mmぐらいの大きさ

私は、オトシブミについては、ファーブル昆虫記(子供向けにリライトされたもの)を読んで知っていただけだったので、これが実際に井の頭公園で見られると知ってわくわくし、一時観察に夢中になりました。

4月中頃羽化したメスは、伸びてきたエゴノキ(ハクウンボク)の葉にやってきて、揺籃づくりを始めます。

先ず揺籃を作る葉を選ぶため、葉の上を歩いてチェックします。選んだら葉の横から切り始めて、主脈を横切ってJの字型になるような切り込みを入れます。次に葉を縦に二つ折りにして、下からくるくると巻き始めます。途中で産卵するようです。最後に巻物がほどけないようにすその始末をして終わります。これらの作業は、顎で噛んだり、脚の力で引き寄せたりしながら行うのです。

▲オスはメスが作業しているとき、マウントしていることが多い。交尾しているのか、他のオスから守っているのか。

このいくつもの複雑な工程を着々と間違えることなく続けるオトシブミは、すべて本能の命令に従った機械的作業で揺籃を作っているわけで、「本能ってすごい!」と感嘆してしまいます。どんな熟練の職人でも、あるいはAIロボットでも、このような揺籃を作るのは、至難の業ではないでしょうか。

しかし、揺籃づくりを観察していると、時々何かの障害にあって途中で作業をやめてしまうことがあります。途中でやめてしまった揺籃に戻って続きを行うことはありません。また、新しい場所で1からやり直すだけのようです。スタートから終了までの一連の工程が連続するようにプログラミングされているので、後戻りしたり、一旦やめた作業の続きを行ったりすることはできないらしいのです。これが本能的行動の限界なのでしょうか。 自然界は想定外の出来事が多すぎて、プログラミングしきれないわけです。できた揺籃を調べてみると、当然ながら大きさが違うし、失敗作かなと思うものもあります。オスが争いをして作業を邪魔したり、天敵が襲ってきたり、卵を狙って忍び寄る寄生蜂があらわれたりして、いろいろなドラマが生まれます。それが観察の醍醐味になります。

▲おかしな切込みが入った揺籃
▲オスが長い首を打ち合わせて争っている。それが邪魔になって揺籃が作れず、メスは飛び去る。小さな寄生蜂も忍び寄っていた。