「植物」カテゴリーアーカイブ

アベリアの花にくる昆虫たち

アベリアは、井の頭公園のああちこちに植えられている園芸品種の低灌木です。コンパクトで好みの大きさに剪定することができるうえに、四季咲きといえるほど長い開花期(5月中旬~10月)や、半常緑でありながら寒さに強いという特徴があり、管理しやすいのかもしれません。

蜜を栄養源にする昆虫たちは、夏場から秋にかけて、他にあまり花が咲いていないような時期に、盛んにこの花を訪れます。

▲アベリアの花の蜜を吸いにきたカラスアゲハ(7月)

過去の例から拾ってみると、いろいろなチョウやガが吸蜜に訪れることがわかります。

夜に活動するスズメガなどもアベリアを訪れています。

ハチの仲間もやってきます。

スズメバチもよく来ます。

これらの昆虫を狙う天敵も潜んでいます。トンボたちもアベリアに来る昆虫を狙って飛び回っています。

蜜を吸う昆虫たちは、だいたい7月~9月ごろにアベリアの花を利用していることがわかります。

ところが最近、樹木の剪定が頻繁に行われ、昆虫たちが花を利用する時期に、花があまり咲かないような状態になってしまいました。

▲2021年9月の様子
2023年夏の状態

今年はこんな状態なので、いつもアベリアで見られるオオスカシバもほとんど現れません。

アベリアは、よく枝を伸ばす植物なので、剪定は必要だと思いますが、この花が一番よく咲く時期に花が咲かないような剪定のしかたは、人の鑑賞という観点からも、生物多様性という観点からも、好ましくないのではないでしょうか。

文責:takaku

ヤブガラシと昆虫

「ヤブガラシとアベリアが一株あれば、たくさんの昆虫が見られるよ。」と、私が小学校の教員をしていたとき、研修会で教えてもらった印象的なことば。その後の井の頭公園での昆虫観察で実感しています。

例えばチョウのアオスジアゲハは、ヤブカラシの花がとりわけ好みのようで、6月~9月ごろまでたびたび訪れるのを目にしてきました。足場がよくて、蜜をすいやすいからかもしれません。

▲ヤブカラシの花の蜜を吸うアオスジアゲハ

アオスジアゲハばかりでなく、ほかのチョウやガもよく来ます。

ヤマトシジミやモンシロチョウも来ていました。

ハチの仲間もたくさん訪れます。ハチは動きが速くてなかなか捉えられませんが、花の蜜を吸っているときはチャンスです。ヤブカラシの花で待っていれば、かなりの種類のハチを観察することができます。

チョウやハチを撮っていると、さらにいろいろな種類の昆虫が目に入ります。

もし、じっと動かない昆虫がいたら、よく見てみると天敵に襲われた個体であることが多いです。アズチグモやムシヒキアブ、オオカマキリなどの捕食性の虫たちは、昆虫がたくさん集まる場所で狩りをすることが多いです。

ヤブガラシには、花ではなく、葉を食べる各種の昆虫やその幼虫も見られます。

このように、ヤブガラシは実に多くの昆虫とつながっている、昆虫の多様性を保証している植物だと言えるでしょう。

しかし、ヤブカラシは繁殖力が強いつる性植物で、庭や公園では植栽の植物を覆いつくし、樹勢を弱らせると考えられています。これが繁茂している場所は、管理されていない荒れた場所と思われやすいです。

実際に、大事な植栽を守るためにヤブガラシを刈り取るのはやむおえないとは思います。しかし、単に景観的に見栄えが悪いというだけだったら、たくさんの昆虫たちのためにぜひ刈り残してほしいと思います。それが生物多様性を保全する手立てになるはずです。

文責:takaku

刈り残しの草地

井の頭公園の三角広場とよばれる場所は、明るく開けた草地があり、草地を好む昆虫たちがよく見られる場所です。しかし、最近草がたびたび刈り取られ、昆虫たちが見られなくなってしまうことがありました。「もし、草地を刈り取らなかったら、これらの昆虫がずっと棲み続けられるのではないか。」と思い、試しに一部刈り残しのエリアを作ってもらうことになりました。

▲三角広場の刈り残しの草地(6月27日の様子)

6月下旬ごろの刈り残しエリアには、まだヒメジョオンの花がたくさん残っていて、イネ科のメヒシバは背丈が低い状態でした。

刈り残しの草地で見つかった昆虫たち

直翅目(バッタの仲間)

まず、イネ科の生える草地を好む直翅目を調べてみました。予想していたショウリョウバッタは、7月上旬ごろから幼虫が数匹目につくようになり、7月末には成虫も確認できました。

▲ショウリョウバッタの幼虫から成虫まで

そのほか、オンブバッタ(幼虫から成虫まで多数)、ヒシバッタ・ノミバッタ、たぶんクビキリギスの幼虫なども見つかった。

イネ科の植物メヒシバが伸びてくると、直翅目以外の昆虫もいろいろ目につくようになりました。これらも、幼虫から成虫までここで育つ様子が観察できました。

また、ヒメジョオンの花にもたくさんの昆虫がやってきました。

アブやハエの仲間もよく見られました。

秋が近づいてくると、イチモンジセセリがやってきて、イネ科植物に産卵もしました。

ヤマトシジミは、草の茂みの中で休憩したり、交尾したりしています。草原は、昆虫たちの隠れ家にもなっているようです。

▲交尾するヤマトシジミ

そして、昆虫たちを捕食する昆虫もやってきました。

サシガメ(昆虫などを捕食するカメムシ)もいました。

特にシオカラトンボはいつもこの草原を低く飛び回り、獲物を探しているようです。また、アジアイトトンボも、草原の小さな小さな生き物をつんつんと捕らえていました。そして、東京都のレッドデータに記載されているミヤマアカネもやってきて、この草原に10日間もど滞在しました。成熟するまでここでエサ取りをしていたようです。

▲ミヤマアカネ

このように刈り残された草原には、実に多様な昆虫たちが生息していることがわかります。

これらの昆虫たちはもちろんここだけでなく、周りの草原にも見られるものが多いのですが、周りでは成長の途中で突然草刈りが行われ、成長が中断されてしまいます。産み付けられた卵や成長途中の幼虫が生きられなくなるのです。

生物多様性を保全するために、ぜひ、このような刈り残しエリアをこれからも作り、広げていってほしいです。

エゴノキとつながる生き物たち

 エゴノキ(エゴノキ科の落葉小高木)は、井の頭公園にはわりと多い樹木で、花や実が特徴的なので見分けやすいです。私がエゴノキという樹木を認識したのは、いろいろな生き物たちとつながりがあったからでした。

満開の花をつけるエゴノキ

春、若葉が伸び始めたころ、エゴツルクビオトシブミが羽化してきて、葉を巻いて揺籃をつくります。このオトシブミについては、先に記事に書きました。

エゴツルクビオトシブミには、寄生するハチやハエがいます。

戦いオスの足元には、黒い小さな虫がいる。揺籃の中に卵を産み付けようとしているようだ。

伸びてきた葉には虫こぶ(虫えい、ゴールなどともいう)が見られることがあります。虫こぶは昆虫などに寄生されたりして葉に異常が起きてできたものです。

エゴノキで一番目立つ虫こぶはエゴノネコアシと呼ばれるものです。

これは、エゴネコアシアブラムシと呼ばれるアブラムシによってできた虫こぶです。秋に産み付けられた卵が春に孵って、エゴノキの芽を吸汁し始め、新芽は変形して虫こぶができます。7月ごろ有翅虫(翅のある成虫)が生まれ、虫こぶから飛び出して、イネ科のアシボソという草に移動。10月ごろまた翅のあるメスがエゴノキに戻ってオスとメスが産まれ、この雌雄が交尾して卵を産むそうです。複雑な生態ですね。

エゴノネコアシ以外にも、エゴノキの葉には、様々な虫こぶができます。

これらの中の1つを切って中を見ると、ウジ型の幼虫が入っていました。タマバエの一種だと思われます。

黄色いウジ型の幼虫

ネットで調べると、アブラムシ・タマバエのほかにキジラミの仲間もエゴノキに虫こぶを作るそうです。さらに、こうした虫こぶのなかの昆虫に寄生するハチもいるようです。

エゴノキは5月ごろ白い小さな花を咲かせます。この花を好んで訪れる昆虫はハチの仲間です。(下向きの花のため、脚の力の弱いハエやアブは止まることができない。)

これらのハチたちは、体に花粉をつけて別の花のめしべに運び受粉させ、実を成らせます。

こうしたポリネーターたちのおかげで、7月ごろには、白い丸い実がたくさんなります。その時期を待っていたように現れるのが、エゴヒゲナガゾウムシです。

目が左右に突き出た不思議な顔をしたこの虫を初めて見たときは、ほんとうにびっくりして、いろいろ調べたり、みんなに紹介したりしたものです。

このゾウムシは、エゴノキの実の中に産卵し、幼虫は種の部分を食べて育ちます。オスは飛び出た目の顔をぶつけ合ってライバルと戦います。

エゴヒゲナガゾウムシとエゴツルクビオトシブミは、私のお気に入りの昆虫で、毎年「そろそろ出てくるころだ。」と探し始め、いろいろ新しい発見もありました。また、ついでに虫こぶに気づいたり、他の虫が目に入ったりもしました。

今年の発見は、シロテンクロマイコガという蛾です。この蛾は以前からたびたび目にはしてきたのですが、なぜかエゴノキで見ることが多いことに気づき、エゴノキの実に産卵しているのではないかと思うに至りました。

特徴のある飾り翅を持つシロテンクロマイコガ。くるくる回るように動くので「舞子蛾」というらしい。

秋も深まると、この実を食べにくる野鳥が現れます。シジュウカラ、キジバトなどが食べに来るのを見たことがあります。

エゴノキの実を食べるキジバト

しかし、なんといっても一番多く訪れるのはヤマガラです。エゴノキの実には、有毒なサポニン(エゴサポニン)が含まれているのですが、ヤマガラは両足で実をはさみつけ、器用にくちばしでつついて有毒な果皮を割り、中の種子だけを取り出します。(毒成分は種の成熟期には弱まるという説もありました。)

ヤマガラは、その場で食べるときもありますが、実を幹の割れ目や朽木、地面などに埋め込んで貯える習性(貯食)があります。餌が少なくなった冬の時期に取り出して食べたり、翌年の繁殖期にヒナに与えるエサとして使われたりします。

エゴノキの実を採るヤマガラ

貯食されたまま取り残された実は、発芽して新たなエゴノキに生長していくのでしょう。なお、ヤマガラによって果皮が除去されたエゴノキの種子は、果皮がついたままよりも発芽率が高いそうです。

知人は、落下したエゴノキの実を割って調べたところ、その半数以上の中にエゴヒゲナガゾウムシの幼虫が入っていたと言っていました。ヤマガラは、その幼虫も食べるらしいです。結果、エゴヒゲナガゾウムシが大量に増えるのを防いでもいることになります。

こうして、エゴノキという1種の樹木をざっと見ただけでも、多くの生きものがかかわっていることがわかりました。また、その生き物とつながる別の生きものがいて、食物網が形成されているわけです。

さらに、別種の樹木たちも、それぞれ別の生きものとつながっているのだと考えると、生態系の複雑さは、改めて驚きを感じます。

文責:takaku

ダイミョウセセリがレッドデータに!

もうすぐ8月も終わる時期の今、草が思い切り生えた公園の一角で、ダイミョウセセリを見ました。あたりにたくさん生えているキツネノマゴという小さな花の蜜を吸っているようです。翅がかなり痛んでいるようですが、それがたくましく生き抜いてきた勲章のようにも見えます。

ダイミョウセセリは、セセリチョウ科のチョウですが、モンシロチョウなどのようにひらひらと飛ぶチョウではなく、英名をskipperという通り、直線的に素早く次の花に飛び移ります。こげ茶色に白い斑紋がちりばめられた地味な色合いで、翅を開いて止まることが多いチョウなので、ガ(蛾)と間違えられる時もあります。(分類的にもガに近いチョウらしいです。)

このダイミョウセセリをなぜ取り上げたかというと、実は「東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)2020年版」(略称「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」)が2021年末に発表されましたが、このダイミョウセセリが新たに東京都区部でVU(絶滅危惧Ⅱ類)になっていたからです。井の頭近辺ではダイミョウセセリはごく普通に見られるチョウという印象だったので、びっくりしました。

ダイミョウセセリは、区部でなぜ絶滅危惧種になったのでしょうか。

井の頭公園(三鷹市・武蔵野市にまたがる)は、北多摩区域なので、今のところレッドデータのランク外ですが、区部に隣接する公園なので、区部の二の舞にならないようにしたいものです。

成虫は、4月から10月ごろまで四季折々の野草や花壇の花によく現れます。特に花のえり好みなく吸蜜するし、時には鳥の糞などを吸い取ることもあります。

春ハルジョオンが咲くころ第1化の成虫が現れる。

幼虫の食草は、ヤマノイモ科(ヤマノイモやオニドコロ等)です。チョウは食草に卵を産み付けると、自分の毛を卵に擦り付けて保護します。

幼虫は、葉に切り込みを入れ、折り曲げて糸で綴り、その中に潜んで暮らします。幼虫巣と呼ばれます。成長して体が大きくなると巣を移動して新たに大きな幼虫巣を作ります。そして幼虫巣の中で蛹になります。

▲ヤマノイモ科の葉を食べる幼虫(雑音あり。ミュートしてください。)

冬は、幼虫の姿で越冬。幼虫巣がついた葉は、冬には落葉します。幼虫はそのまま巣の中で冬を越し、春に蛹になります。(越冬巣)

ダイミョウセセリが絶滅危惧種になる理由は、どうもこのヤマノイモ科での繁殖の仕方にあるように思います。

食草のヤマノイモはどんなところにはえているのでしょうか。幼虫巣をたよりに、ダイミョウセセリが産卵場所として選んだ場所を探してみると、こんな場所です。

左は、井の頭公園に隣接する住宅街区域の玉川上水縁。つるが絡み合って歩道に進出したり、時には樹木を覆うほどに伸びていることもあります。そして、ときどき刈り取られてしまいます。

これが茂る場所は、他のつる性植物(ヤブカラシ・カラスウリ・ヘクソカズラ等)も絡んでいることが多く、手入れされていない荒廃した場所と感じられやすいのでしょう。特に、きれいに手入れされた状態を好む人が多い街中や住宅街では好まれない景観なのだろうと思います。

このフェンスは今老朽化していて、作り直すという問題も起きています。新しいフェンスがどのようなものになるかによって、ここもダイミョウセセリの生息場所ではなくなるかもしれません。

また、越冬巣がついた落ち葉は、しばしばきれいに掃き集められ、ゴミ収集車の中に放り込まれるのを目にしてきました。

ダイミョウセセリが絶滅危惧種にならないようにするためには、食草の適切な管理、落ち葉の処理の仕方等が大事だと思うのです。

文責:Takaku