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かいぼりは生物多様性のためになるのか?

 井の頭池は過去3回のかいぼりをおこないましたが、絶滅危惧種のイノカシラフラスコモが約60年ぶりに自然復活し、2019年には在来希少種のツツイトモが繁茂し、新聞などでも「モネの池」と賞賛されました。しかし、2020年から重点対策外来種のコカナダモが増えはじめ、2022年にはコカナダモが井の頭池の藻で最優位になってしまいました。

 貴重な在来種の復活と繁栄を喜んでいた後だけに、それが外来種に置き換わってしまうことは残念なことで、とくに在来水草の保護活動をされている方々はショックを感じているだろうと思います。

 一方、水草以外の生物に目をやると、2021年秋から2022年冬にかけての越冬カモの増加や、飛び交うトンボも目に見えて増え、水草以外の生物は良い状態にあるようです。多様性も増しているように思います。

 井の頭自然の会が発足してから続けている野鳥ラインセンサス調査のデータから、池周りの水鳥のデータを抽出して個体数や多様度指数を求めてみました。

 冬ガモの越冬期間である10月から翌年3月の6か月間に記録された水鳥の合計数が下表です。

 

 とくに注目すべきは、植物を主食とするヒドリガモとオオバンの増加です。ヒドリガモはいままで数羽飛来しても井の頭に定住することはなかったのですが、コカナダモの繁茂と符合するように急増し、たった1年で井の頭池で最多数のカモになりました。

 そのほかにもオカヨシガモ、マガモ、オナガガモ、コガモなど、井の頭に定住していなかったカモが軒並み増えて定住するようになり、キンクロハジロ、ホシハジロなど潜水性のカモも増加してきています。これは、コカナダモの繁茂と藻を住処とする水生昆虫や小魚、川エビなども増えて、鳥たちにとっての餌環境全体が良くなっているのだと考えられます。

 カイツブリの数も増え、春以降の繁殖成功率も高い状態で維持されています。

 次に多様度指数(シャノンウィナー)を計算してみると下記のようになります。指数が高いほど多様性が高いことを示します。

 最後のかいぼりが行われた2018年には水鳥の多様度指数が2.0を超える回は1回しかありませんが、その後水草の復活と繁茂によって年々多様度指数が上昇しています。グラフではわかりにくいので、指数が2.0を超えた回数、2.5を超えた回数、3.0を超えた回数をそれぞれ数えたものが下表です。

 2022年はまだ7回(7月まで)しかセンサス調査をしていませんが、多様度指数が3.0を超える回がすでに3回もあります。

 このように個体数だけでなく、水鳥の多様性も年々高まっています。

 池の生態系ピラミッドを考えると、その土台にプランクトン、水草、水生昆虫、小魚などがあり、それらを食す鳥類はその上位に位置します。かいぼりという大規模な改変のあと、まず土台のほうから発生→繁栄→多様化がおこり、鳥類はそれより遅れて繁栄と多様化がおこっていると考えられます。

 池の水を全部抜くかいぼりをおこなうと、このように時間をかけて成熟してきた生態系全体の多様性をリセットしてしまうことになります。

 かいぼりをすればコカナダモは一旦減りますが、完全に駆除できる保証もなく、かいぼり後にふたたび大繁茂する可能性すらあると思います。

 また、コカナダモは長野県木崎湖や尾瀬沼で繁茂のあとに自然衰退し、在来のヒメフラスコモなどと共存しているという事例も報告されています。自然衰退はリンを消費してしまいリン欠乏することから起こるそうです。

 国立環境研究所の侵入生物データベースでも、オオカナダモコカナダモは『異常繁殖した後,衰退して安定または消滅する傾向あり』となっています。

 このような事例や知見を踏まえると、水草だけに着眼してかいぼりを急ぐのではなく、全体の生物多様性を重視するべきだと井の頭自然の会は考えています。コカナダモは歓迎できない種ですが、その駆除だけを目的にしてすべての生物をリセットすることは現時点では避け、コカナダモの自然衰退が起こるのか?起こらないのか?など様子を観ていくほうが良いように思います。

 井の頭かんさつ会の保全ブログでは、コカナダモが水の浄化に役立っていることなどもレポートされています。こちらもぜひ読んでください。

 suzuki