南から来たチョウたち③ ナガサキアゲハの場合

私は2004年9月25日に井の頭公園内でナガサキアゲハを始めて確認しました。このチョウもツマグロヒョウモンと同じく、以前は関東では見られない南国のチョウだったので、「ついに井の頭公園にも現れたのか。」と夢中で写真を撮りました。

▲私が井の頭公園内で最初に見たナガサキアゲハ 2004年9月25日

東京でナガサキアゲハが見らるということは当時はニュースにもなる出来事だったので、新聞記事になったりもしました。

▲朝日新聞地方版の記事 2006年10月28日

また、温暖化とナガサキアゲハの北上の関係を検証したレポートも発表されました。

温暖化ウォッチ(14)チョウの分布域北上現象と温暖化の関係 (nies.go.jp)

その後ナガサキアゲハは、井の頭公園内でもすっかり定着し普通種になり、園内での繁殖も確認しました。

▲園内で交尾するナガサキアゲハのペアと園内のミカンの樹で育つ幼虫

ところで、ナガサキアゲハは、とても大きなアゲハチョウの仲間ですが、オスとメスの翅の模様がかなり違い、メスの方が目立ちます。また、尾状突起がないという、アゲハにしてはちょっと特殊な形をしています。

▲ナガサキアゲハのメス 尾状突起がなく、下翅に白と赤の大きな斑紋が目立つ。

▲ナガサキアゲハのオス 表から見るとほとんど真っ黒、下翅の裏にかすかに斑紋がある。

この尾状突起のないナガサキアゲハをすっかり見慣れたころ、さらに驚く情報が入りました。

2018年、親交のあるチョウ愛好家の方が、なんと尾状突起のあるナガサキアゲハを井の頭公園で見つけられ、写真を送ってくれました。許可を得て私個人のブログで紹介したところ、もう一方、井の頭で写真を撮っている方が、2017年の写真も提供してくれました。

▲2017年、2018年に井の頭公園内で撮られた尾状突起のあるナガサキアゲハ 

有尾型は、とても派手で、いかにも南国のチョウという印象です。この尾状突起も、メスだけに現れるそうです。

このタイプのナガサキアゲハは、東南アジアなどの南方に多く、日本では少ないらしいのですが、それでも時々関東地方でも見られる例があるそうです。(その後有尾型が井の頭公園にいるという情報は耳にしていません。)

有尾型は、ツマグロヒョウモンと同様に、ベイツ型擬態によるもので、モデルは南国のチョウ、オオベニモンアゲハと言われています。これに対して今関東地方に生息している尾状突起のないナガサキアゲハは非擬態型というそうです。

オオベニモンアゲハは見たことがないので、参考までに南西諸島で撮ったベニモンアゲハ(これも毒蝶)を掲載しておきます。

ちょっとジャコウアゲハ(毒蝶)とモンキアゲハが混ざったような感じですね。

今後、この有尾型のナガサキアゲハが井の頭公園に定着するような状況になるのでしょうか。

文責:takaku

南から来たチョウたち② ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモンは現在、井の頭公園で普通に見られるチョウ(タテハチョウ科)です。

▲井の頭公園で見るツマグロヒョウモン。オス(左)とメス(右)メスの翅の先(褄)が黒い。

しかし、20年以上前にはこのチョウは東京にはいませんでした。

以前、ネット上で交流していた四国在住の方のお庭に、とても華やかな見知らぬチョウが来ているのを写真で見て、何だろうと調べてみたことがあります。当時、ツマグロヒョウモンの分布は「三重県以西」とありました。「東京では見られないチョウなのだ、いつか南の地方へ行って、こんなチョウを一度は見てみたい」とあこがれました。

その後2004年、私は東京の公園で初めてツマグロヒョウモンを目にしました。信じられなくて、とてもびっくりして、何枚も何枚もシャッターを切ってしまいました。 南国へ行かなくても、南国のチョウが見られたのです。でも、結局ツマグロヒョウモンが東京で見られるのは、温暖化のせいらしいと知って複雑な気持ちになりました。

私が井の頭公園でもツマグロヒョウモンを確認したのは、2005年です。

▲アベリアの花で吸蜜するツマグロヒョウモンのオス 2005年10月1日 井の頭公園

井の頭公園では、その後すっかり定着し、また、新聞紙上などでもこのチョウが関東地方へ進出してきたことはよく話題になりました。

今、ツマグロヒョウモンは公園で見ても、シャッターを押す気持ちにもならないほどありふれたチョウになってしまいました。そして、はるばる南国へ行って目にしても、「ツマグロヒョウモンが見られて、南国へ来たかいがあった。」という感慨もなくなってしまいました。東京のチョウ世界の原風景が変わってしまったという寂しさも感じます。環境の多様性が失われ、世界が均一化してしまった感じです。

ヒョウモンチョウの多くはスミレを食草としていますが、ツマグロヒョウモンは園芸種のパンジーなどを好むらしく、飛来したころは個人宅に庭のパンジーに産卵しているのがよく見られました。けれど、最近は公園の野草のタチツボスミレにもよく産卵しています。すでに環境にうまく適応し始めているということでしょうか。

▲井の頭公園や隣接する個人宅で見られるツマグロヒョウモンの生活史

ツマグロヒョウモンの謎として、オスとメスの違いがあります。メスだけが褄が黒いのですが、これは、南方の毒蝶カバマダラに擬態(ベイツ型)していると言われています。なぜ、メスだけが擬態しているのか、カバマダラのいない関東で、この擬態は果たして生存に優位に働くのか、 いろいろ議論されているようです。

▲関東地方の湾岸部に飛来したカバマダラ

実は、カバマダラは、ときどき関東地方の沿岸部に飛来して話題になったことがありました。これもそのうち定着したりするのでしょうか。

ツマグロヒョウモンは、私にとっては、昆虫と地球温暖化の関係に気づかせてくれたチョウです。「なんだツマグロヒョウモンか」などと思わず、今後の成り行きを注視していかなければなりませんね。

※ここでいうチョウのベイツ型擬態とは、鳥類などの捕食者に対して無毒でおいしい種(例:ツマグロヒョウモン)が、有毒で嫌な味のする種(例:カバマダラ)の外観、形、行動を模倣することによって捕食を逃れる現象です。

文責:Takaku

井の頭公園を通過するアカショウビンとヤイロチョウ

 私は2017年と2018年の2年間、奥多摩など東京山間部で夜間の鳴き声調査を行いました。

 調査はミゾゴイ、フクロウ、アオバズク、オオコノハズク、コノハズク、ヨタカなど、夜間にさえずる鳥類を対象種としたのですが、思わぬ副産物として、夜間にアカショウビンやヤイロチョウの声が録音されるケースが何度かありました。

 アカショウビンもヤイロチョウも、基本習性は日の出時刻がさえずりタイムです。しかし、5月20日前後の飛来期には夜中にも鳴きながら飛んでいることがわかりました。夜は静かなので、朝や昼より声が良く聞こえる時間帯です。飛来期に繁殖する相手を探しながら徘徊しているのではないか?婚活飛行ではないか?と私は想像しています。

 婚活飛行であることの証明は、なかなか難しいのですが『5月20日前後に、夜中に鳴きながら飛んでいる』というのは紛れもない事実で、山間部では2年連続でヤイロチョウの声が録れた地点も何か所かありました。

 その後2019年からは公園管理者の許可をいただいて、井の頭で365日の録音調査をやっています。タイマー録音の設定は日の出前2時間、日の出後2時間くらい、鳥のさえずりタイムを中心にどんな鳥が鳴いているのかを調べています。

 普段は1日4時間録音くらいを目安にタイマー録音をしているのですが、5月20日前後に日没から日の出まで長時間録音をすれば井の頭でもアカショウビンやヤイロチョウが録れるのではないか?と考え、2020年から、この時期には一晩中録音に切り替えています。

 それで、録音できたのが下のアカショウビンとヤイロチョウです。

20200527 小鳥の森 アカショウビン
20210525 小鳥の森 ヤイロチョウ

 録音調査では、データの全部を耳で聴いてチェックすることは時間的に無理で、パソコンで上記画像のようなスペクトログラム表示にして、目で鳥の声を探します。

 アカショウビンの「キョロロロロ・・・」や、ヤイロチョウの「ホーヘン ホーヘン」の波形は、奥多摩の録音で何度も見ている波形ですが、井の頭公園での録音の中にこの波形を見つけた時には、心の中で「キターーーーー!」と叫びました。そして、その部分を再生して声を確かめて、ふたたび「よっしゃーー!」と心の中で叫びました(笑)。

 ちなみに、奥多摩でのアカショウビン、ヤイロチョウの記録は沢のある場所がほとんどでした。(一か所だけ、山の尾根線でヤイロチョウの声が録れた例もありました)。井の頭公園でこれらが録音できたのは、玉川上水の連続する水と緑の環境が貢献したのではないか?と考えています。

 このヤイロチョウの声の記録は、ヤイロチョウの本場、四万十川で研究と保全活動をされている(公財)生態系トラスト協会の皆さんにも聞いていただきました。本場の皆さんからも『都市の真ん中を飛んでいくヤイロチョウの記録として貴重である』とコメントをいただきました。

suzuki

南から来たチョウたち ①

昨年(2021年)の10月のこと。井の頭公園内のセイタカアワダチソウに吸蜜に来たウラナミシジミを撮っていたとき、撮った写真をよく見ると、ウラナミシジミとは違っていました。しかし前に見たことがあるチョウのような気もします。そこで思いついたある名前をスマホでチェックしてみました。(便利な時代になったものです。)やはり、そのチョウは予想どおり「クロマダラソテツシジミ」でした。

▲井の頭公園に現れたクロマダラソテツシジミ 2011年10月26日
▲翅を開いたところ 同日同場所

私が持っている図鑑「蝶」(新装版山渓フィールドブックス)2006年初版発行には、クロマダラソテツシジミは掲載されていません。もう1冊最近購入した「フィールドガイド日本の蝶」(日本チョウ類保全協会編、誠文堂新光社刊)2012年発行には、「かつては国内に生息せず、1992年に沖縄島で初記録。近年は南西諸島や九州南部で定着。強い分散力と植栽による移動で、関東まで発生することもある。」と書かれています。つまり、クロマダラソテツシジミは、外来種として一旦沖縄入って定着し、それから暫時北上してきたチョウのようです。

このチョウの幼虫の食草は名前の通りソテツです。私も実は沖縄に行ったとき見たことがあるし、2016年には東京都の港湾部で観察したことがありますが、そこにはソテツがたくさん植えられていました。

ウィキペディアによれば、ソテツは

「日本列島に自生する唯一の種で、自然分布では日本列島の固有種である。日本列島の九州南端、南西諸島、台湾、中国大陸南部に分布する。主として海岸近くの岩場に生育する。なお、自生北限は宮崎県串間市都井岬である。本州には自生しないが、ある程度の寒さに耐え、異国情緒を醸す庭園樹になることから、寺社、庭園、市役所前のロータリーなど、各地で植えられている。」

とあります。

私が東京都でクロマダラソテツシジミ(成虫・幼虫)を、見たのはまさにそうした場所だったようです。

▲ソテツの葉を食べる幼虫たち 2016年11月2日 東京都港湾部にて

実は、この年2021年には新宿御苑にクロマダラソテツシジミが現れ、御苑のソテツに被害を与えているという話を聞いたばかりでした。内陸にも進出しているようです。

そこで、クロマダラソテツシジミが見られた井の頭公園近辺の植栽を調べてみると、とある一軒のお庭にソテツが植えられていました。

井の頭公園ではたぶん初記録だったのではないかと思いますが、今後定着するかどうかはわかりません。冬越しができるか、食草のソテツが十分あるかが鍵になりそうです。

ソテツが植えられているところは要注意です。

私が井の頭公園でチョウを観察し始めてからたかだか20年未満ですが、その間にも、クロマダラソテツシジミのように、以前にはいなかった南方系のチョウが次々と現れるのを目の当たりにしてきました。その記録を残しておきたいと思います。

つづく

文責:Takaku

ムスジイトトンボの大繁殖

 井の頭池は2014~2018年に3回のかいぼりが行われました。かいぼりの一番の目的は外来魚のブラックバス・ブルーギル等を駆除することでした。1回目のかいぼりが終わった後の2014年夏、池を観察していると、かいぼり直前にはほとんど見られなかったウチワヤンマ・コフキトンボ(帯型のメス)・チョウトンボなどがいるのに気が付きました。「かいぼりによってトンボも増える」と実感したのです。

その実感を確かめるため、3回目のかいぼりが終わった2018年から、井の頭かんさつ会と発足したばかりの井の頭 自然の会の有志メンバーで池のトンボ調査をすることになりました。

翌2019年5月のこと、自然の会のメンバーが、今まで井の頭池で見たことがなかったイトトンボの写真を撮ってくれました。調べてみると、眼後紋の形、背の黒い線の中に白い斑紋がある、腹端の二節の青い部分の様子などから「ムスジイトトンボ」(♂)とわかりました。

▲自然の会のメンバーが撮ったムスジイトトンボの♂ 2019年5月20日

次いで、井の頭かんさつ会の田中利秋さんが、5月25日に不明イトトンボのヤゴ゙を発見、6月2日に羽化したイトトンボの写真を見せてくれました。それはムスジイトトンボのメスでした。

▲田中さんが井の頭池で見つけたヤゴ(2019年5月25日)

このことから、ムスジイトトンボはかいぼりが終わった2018年には井の頭池に現れ、産卵していたのだと推測されます。パイオニア的な性質が強いトンボなのかもしれません。

地元の公園の池は、かいぼり後に復活したツツイトモが盛大に繁茂するようになり、ムスジイトトンボ(のオス)はそのツツイトモの上に止まっていることが多かったです。イトモが消失した場所や時期には、ムスジイトトンボも見えなくなりました。

▲藻の上にとまるムスジイトトンボの♂ 時々飛んではメスを探す。

8月に入ると、池の周りから見渡す限り、ムスジイトトンボが乱舞するようになりました。

イトモの上を飛び回る♂、交尾・産卵するペアが数えきれないくらいです。池回りから見える範囲のムスジイトトンボの数を数えた結果、500匹を越えていました。

▲水面に浮かぶ葉や水草に静止してで交尾するムスジイトトンボのペア
▲連結状態で産卵するメス。水草の組織内に卵を産み付けるメスは、時に完全に水中に潜ってしまうこともある。

過去の井の頭池のトンボ調査の記録をいろいろ調べてみましたが、ムスジイトトンボがいたという記録はみつかりませんでした。

「日本のトンボ」(尾崎暁・川島逸郎・二橋亮著 文一総合 2012年初版発行)で分布図を見ると、関西以南が中心で、海岸線に沿って広がっています。そして、「近年関東地方などでは分布域が北上している。」とありました。また、ヤゴの生息環境は「平地の浮葉植物や沈水植物が繁茂する開放的な池沼」ともあります。別の本では「クロイトトンボ属の中で、もっとも暖地に分布しているイトトンボです。」という記述も目にしました。

井の頭池はかいぼり後、埋土種子から水草が大繁茂するようになりました。また、近年の夏の猛暑なども、ムスジイトトンボの絶好の繁殖条件になったのでしょう。

2020年、2021年も、ムスジイトトンボの数は減るどころか、増える一方です。最近の調査では、1回に1000匹以上を数えるほどになりました。今後どのように推移していくのでしょうか。

▲池回りの杭にイトトンボのヤゴの抜け殻が多数。いかに多く羽化したかわかる。

かいぼりによって井の頭池のトンボの種数も個体数も増えたことは間違いありません。けれど、それは以前にいたトンボがみんな個体数を増やしたというわけでもなく、一度絶えたトンボが復活したわけでもなく、全く新しいトンボが一番増えたわけです。

「かいぼりによってトンボが増えた、よかったよかった。」で終わるのではなく、これからの井の頭池をどう保全していくのか、こういうトンボの生息状況もよく分析して考えていく必要があると感じました。

文責:Takaku

ヤマガラの分業制 その2

先日の記事『ヤマガラの分業制』をアップした後、複数の知人に、ヤマガラの餌渡し行動に関する知見や文献の有無を聞いてみました。

『砧公園で同じ行動と思われる場面を見た』という井の頭自然の会のメンバーからの報告が1例あり、また『2020年のラインセンサス調査のときにも見た』と同じく当会メンバーの報告もありました。また、ネットを介して知り合った方からは『富士山麓で、すでに雛は巣立っていたが、成鳥雄から成鳥雌への餌渡しを見た』という報告がありました。

そして、恩師の安西英明先生から、日本野鳥の会の会長である上田恵介先生(立教大学名誉教授)や、日本鳥学会の会長も歴任された樋口広芳先生(東京大学名誉教授)に「ヤマガラの餌渡し行動」について問い合わせていただき、両先生から貴重なアドバイスをいただくとともに「今後の調査の発展に期待します」というメッセージをいただきました。

その後、ネットでこの行動に関連する論文をいくつか発見しました。

ヤマガラの巣箱設置による繁殖個体数増加と高密度下における繁殖生態 (荒木田 善隆 1995)

上記論文では、抱雛期(孵化後の雛にまだ羽毛が揃わず、親が温めなければならない期間)に、巣の中でも雄から雌に餌が渡されるパターンがあり、その場合も雌が翼を震わせる求愛給餌同様の仕草があるとのこと。

そして、育雛期間の雌雄の給餌回数が1988年のつがいが「雌152回,雄124回」、1989年のつがいが 「雌207回,雄91回」と雌に偏りがあることが報告されています。

カラ類3種の育雛行動における雌雄間の比較
近藤 崇, 早瀬晴菜, 肘井直樹 (名古屋大・生命農・森林保護 2016)

この発表にはシジュウカラ、ヒガラ、ヤマガラの給餌回数に関する報告があり『シジュウカラとヒガラでは雄が約50–70%,逆にヤマガラでは雌が約50–80%』と報告されています。

これらの報告にあるように、ヤマガラの給餌回数が雌に偏っているのは「餌渡し行動」があるからにほかならないだろうと想像しています。

しかし、餌渡しの多い事例と少ない事例があるようです。それはぺアの個性によるものなのか?あるいは巣と餌場の距離関係などによって頻度が左右されるのか?そのあたりを調べていきたいと考えているところです。

ヤマガラ幼鳥 2022/6/25

樋口先生から教えていただいたのですが、ヤマガラは雌から雄に求愛給餌することもあるそうです。そして巣立ち後に雛が2つのグループに分かれて、成鳥雄と雌がそれぞれ分担育雛することもあるそうです。

上記の写真を撮ったとき、成鳥1と幼鳥2だけしか見られなかったので、もしかするとグループに別れているところだったのかもしれません。

行動を観察するのは楽しいですが、この時期になると幼鳥たちも木の高いところまで行くので、首が痛くなります・・(笑)。

suzuki

ヤブヤンマの大発生

2018年5月10日のこと、野鳥カメラマンたちが小鳥の森でトンボの写真を撮っているのに遭遇しました。何だろうと見ると、ヤブヤンマのようです。

▲羽化中のヤブヤンマ

2頭いて、どちらもヤゴの抜け殻の傍にぶら下がっています。すでに腹も伸び翅もきれいに広がっていますが、ここで羽化した個体に違いありません。あたりを探してみると別の場所にヤゴの抜け殻があと2つ見つかったので、少し前から発生が始まっていたのでしょう。

▲次々と羽化するヤブヤンマ

その後気になって時々チェックしてみると、驚いたことにヤブヤンマの羽化は次々と続き、7月8日までの間に私が確認しただけで20頭以上が羽化していました。羽化したもの以外にも、フェンスや草などにヤゴの抜け殻がたくさんついています。全部を総合すると、この池から羽化したヤブヤンマは少なく見積もっても50頭はいたようです。

▲あちこちに抜け殻が。

羽化したてのヤブヤンマは未成熟で、成熟するまで別の場所へ移動して餌などを捕っていると思われます。近くの広場で大きめのヤンマが飛び回っているのを目にしたことがあるので、それがここで羽化したヤブヤンマだったのかもしれません。

6月も下旬ごろになると、池を周遊するヤブヤンマの姿が見えるようになりました。成熟したオスがメスを探しに来たり、メスが産卵しに来たりしているようでした。

盛夏の時期のヤブヤンマは、日中猛暑を避けて暗い樹林の中で休憩し、涼しくなった夕方、黄昏飛翔をします。成熟したきれいなオスが休んでいる姿も見られました。

▲青い目が美しい成熟したオス

ヤブヤンマはそれほど珍しいトンボというわけではありませんが、この池からの発生は初確認でした。また1か所からこれほど大量に発生したということにも驚かされました。

こんな小さな池に50匹ものヤブヤンマが羽化してきたのはなぜなのでしょうか。

この池は、数年前に野鳥の水場として新しく作られた小さな人工的な池です。初めは生き物など何もいなかったのですが、そのうち春になるとユスリカの仲間が大発生したり、カゲロウやトビケラの仲間がたくさん羽化してくるようになりました。

▲水場のフェンスに止まるユスリカ・カゲロウ・トビケラの仲間

たぶん、そこへヤブヤンマのパイオニア・メスがやってきて産卵したのでしょう。餌のユスリカやカゲロウの幼虫はたくさんいて、競争相手も天敵もいない状態だったので、産み付けられた卵の生存率が非常に高かったのだろうと推測されます。また、周りの環境もヤブヤンマの好みに合っていたに違いありません。

この大発生は、続くのでしょうか。その後、2019年~2021年と観察を続けていくと、予想はしていましたが、発生数は年々半減していきました。今年はまだ見ていません。(見られるといいのですが。)

発生数が減少していった要因は何でしょうか。一つは天敵です。冬の間、カメラマンが、キセキレイなどがヤゴを捕食している写真を撮っていました。カルガモも居つくようになり、カメ(アカミミガメを捨てていった人もいたようで、これが居ついたらヤゴたちは全滅するかもしれません。)も見かけました。

もう一つは競争相手です。この池にはその後、オオアオイトトンボ・リスアカネ・マユタテアカネ・オオシオカラトンボ、そしてクロスジギンヤンマも現れ、産卵するようになりました。それらのトンボのヤゴたちが餌をめぐって競合するようにもなっているはずです。

環境に変化が起きると、生物相がどのように変わっていくのかがよくわかるケースでした。

文責:takaku

ヤマガラの分業制

 5年ほど前まで、井の頭でのヤマガラは『冬になるとやってくる鳥』という位置づけで繁殖はしていませんでした。

 井の頭自然の会が発足した2018年に1例の繁殖(過去10年で2例目)が確認されましたが、翌2019年は繁殖は無くなり、単発だったのか?と思いましたが、2020年からここ3年間は毎年複数個所で繁殖が確認されるようになり、数も増えてきています。

 ヤマガラの繁殖行動が身近なところで観察できるようになり、巣内育雛期の餌の運び方がシジュウカラとは違い、分業になっていることに気が付きました。

 下記の写真は2021年の5月2日のものです。

奥の成鳥も手前の成鳥も餌をくわえているのがわかると思います。手前の成鳥は翼を小刻みに震わせて、餌をねだるポーズをしています。
奥の成鳥の嘴から餌が無くなっています。
手前の成鳥に餌が渡されています。しばらくすると手前の成鳥は飛んで行って、下記の巣に餌を運びこんでいました。
この写真は上記3枚の餌渡しの直後ではなく、同日ですが少し時間が経ってから撮ったものです。

 最初にこの行動を見た時は「繁殖期真っ只中なのに求愛給餌してるのか?」と不思議に思いましたが、餌を渡された成鳥が巣に向かうことが確認できて、なるほどヤマガラはもっぱら餌を獲る係と、餌をすこし獲るものの、途中で「リュリリリリリリ・・・」というような細くてかわいい声を出し、翼を震わせて「運びますよ!」と合図し、相方から餌を受け取って運ぶ係に分かれていることを知りました。

 今年2022年にも、同じ行動を確認できました。

 私はシジュウカラではこのような行動は見たことがありません。

 餌場と巣とを往復する回数が減るという事は、それだけ餌を探す時間が多くなるので、給餌の効率としてはヤマガラ方式のほうが良いと思います。

 このようなヤマガラの餌の運搬、分業制についてネットで検索してみましたが、J-Stageなどに論文も無く、あまり知られていないようです。

 余力があれば、トレイルカメラなどでシジュウカラとヤマガラの帰巣回数や1回に運び込む餌の量など調べてみたいのですが、なんせ忙しいのでデータをとる時間がありません。学生さんなどで手伝ってくれる方いないでしょうかね?

suzuki

外来種の蝶アカボシゴマダラの出現

2022年5月14日、今季のアカボシゴマダラを初見しました。しかし、アカボシゴマダラは昔から井の頭公園で見られていたチョウではありません。

私が初めてアカボシゴマダラの存在を確認したのは、2008年のことでした。その年、私はゴマダラチョウの観察に夢中になっていました。

そしてある日、無事に羽化したチョウを見て、翅の模様が何か変だなと思いました。

▲2008年5月25日に羽化したチョウ

▲ゴマダラチョウの翅

そして頭に浮かんだのが、少し前に見た新聞記事です。

▲2008年2月18日の朝日新聞の記事

この羽化したチョウは、ゴマダラチョウではなく、人為的に放蝶された中国産の外来種アカボシゴマダラだったのです

この後、知り合いから次々に連絡が来ました。「オオゴマダラのような白い大きなチョウが飛んでいた。嵐に吹き飛ばされてきたのだろうか。」「図鑑に載っていない白いチョウが死んでいたが、何ですか。」など。

アカボシゴマダラは日本では奄美大島のみに生息していて、絶滅危惧種です。それは図鑑にも載っていて、名前の通り翅に赤い星があるのが特徴だとあります。しかし、春型(春に羽化するもの)には、この赤い星がないことが多いのです。(2化目以降は、はっきり赤い星がでます。)図鑑には赤星がついているものしか載っていないので、調べてもわからなかったのです。

▲赤星のあるアカボシゴマダラ

また、アカボシゴマダラとゴマダラチョウは、幼虫や蛹もよく似ています。

背中の突起が3対か4対かで区別します。

▲左:ゴマダラチョウ 右:アカボシゴマダラ
▲左:ゴマダラチョウ 右:アカボシゴマダラ

新聞にもある通り、東京都では2007年に成虫が侵入したらしいので、それが産んだ新生個体が2008年に一斉に羽化し、人々を驚かせたわけでしょう。この年の初夏の井の頭公園は、この大きな白いチョウがたくさんひらひら飛んで人々の眼をひき、驚かせました。

以来、井の頭公園では現在まで、アカボシゴマダラは毎年必ず見られる優勢種となりました。

アカボシゴマダラは今、「特定外来生物」に指定されていますが、一度放蝶して広がってしまったものを、元に戻すことはとても難しいです。

アカボシゴマダラは、エノキの葉を食草として育ちますが、エノキには在来のゴマダラチョウ(生活史がアカボシゴマダラとほとんど同じ)のほか、テングチョウ・ヒオドシチョウなども産卵します。アカボシゴマダラの侵入はこれらの蝶の生息環境を脅かすのでしょうか。生態系全体にどんな影響を与えるのでしょうか。いろいろな推測がされていますが、今はまだはっきりとは確認されていません。

これからも注意深く観察を続けていくしかないと思います。

※このチョウ(卵・幼虫・成虫とも)を持ち帰って他所に放蝶してはいけないことになっています。

文責:takaku

 

ハクビシンの声

最近、小鳥の森周辺でハクビシンの目撃例が増えていて、子連れも目撃されています。それと呼応して録音調査のほうにもハクビシンの鳴き声が頻繁に録音されるようになりました。

20220517 小鳥の森

この声は奥多摩のほうの録音調査をやったときも時々録音されて、長らく「謎の声」でした。近い距離で鳴いていると「サルが2頭で喧嘩してる?」というような印象で、遠い距離で鳴いていると「もしかしてフクロウ雌?あるいはフクロウ雌幼鳥?」というように想像のみでしたが、YouTubeにあるハクビシン動画を見つけて、それで謎が解決しました。

ハクビシンは鳥の巣も襲うので、増えないで欲しいなと思います。

suzuki

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