キビタキの「ピッピーロ ピッピーロ」部分のバリエーションについて

GW前後は夏鳥が井の頭公園を通過していく時期で、井の頭バードウォッチャーにとって、まさにゴールデンな期間です。キビタキも井の頭を通過していく夏鳥の代表選手です。

小さい体で海を越え、東南アジアから日本への長距離移動して、到着するやいなや大声量でさえずる姿に、生命のすごさを感じます。

キビタキのさえずりの基本は「フィリン!ピッピーロ ピッピーロ ピッピーロ」ですが、この「ピッピーロ」の部分は非常にバリエーション豊富で、ときに『コジュケイの真似をしている』などと言われることがあります。

「コジュケイの真似」に関しては、私は懐疑的で、なぜならコジュケイは日本と中国大陸南部にしか生息していなくて、キビタキの越冬地であるフィリピンなど東南アジアにはいないのです。半年ぶりに日本に帰ってきて、コジュケイの鳴き方を覚えていて、いきなり真似をするというのは考えにくいのです。そして、日本の北海道もコジュケイは生息していませんが、北海道のキビタキもコジュケイ似の鳴き方をするという報告もあります。

「ピッピーロ」部分のバリエーションは豊富なので、そのうちの一つが、たまたまコジュケイに似ているだけではないか?と私は想像しています。

今年の5月5日に、大変バリエーション豊富なキビタキのさえずりが録音できました。(3分もある長い録音ですが、ぜひ全部聞いて欲しいです)

上記録音のスペクトログラム表示を見ただけでも、バリエーションの豊富さがわかるとおもいます。

これの5回目のさえずりが「コジュケイの真似」と言われるパターンではないか?と思います。

6回目と7回目のさえずりは、すごいです。こんなの初めて聞きました。

キビタキが他の鳥の真似をしているかどうか?は別として『バリエーションが豊富な雄ほど雌にモテる』ということは他の鳥でよく言われていることです。モズなどは観察と実験でモテることが確かめられています。

キビタキの「ピッピーロ」部分のバリエーションが豊富なのは、繁殖期前期だけ、つまり婚活期だけ、ということは無いかな?と思いはじめまして、これは課題としたいと思っています。

繁殖地での録音データもたくさんあるので、飛来期と繁殖期で違いがあるのか?調べてみたいと思っています。

キビタキもピッピーロバリエーションが豊富なほど雌にモテるのだとしたら、この録音の雄は相当モテ男だろうと思います。

suzuki

45年前のキンクロハジロと餌やりについて

私が子供のころの井の頭池にはキンクロハジロはいませんでした。

1977年9月11日に、私は双眼鏡を持ってお茶の水池周りでバードウォッチングしていたら、初めて見るカモが1羽いました。

「なんだ!こいつは!珍鳥に違いない!」私は大興奮で家まで走って戻り、おじさんのカメラを借りて、また走って池に戻り、撮影したのが下記の写真です。

フィルム時代の当時は、現像されて撮影結果を見るまでに数日かかりました。今のデジタルのスピード感に比べると「遅くて不便な時代だった」とも言えますが、出来上がってくるまで「あの珍鳥、ちゃんと写ってるかなぁ・・・?」というワクワクが楽しめました。

それで、現像から戻ってきたこの写真を、すぐに、私が当時所属していた武蔵野野鳥クラブの講師だった安西英明先生に見せました。

「これ、井の頭にいたカモです!なんでしょうか!?」という私に、安西先生は「あぁ、キンクロハジロね、不忍にいっぱいいるカモだけど、井の頭では珍しいね」というような返答でした。

「なんだ珍鳥じゃないんだ・・」と、がっかりしたのを覚えています。

井の頭池ではその後キンクロハジロが増えて、そして「餌やり自粛キャンペーン」(2007年~)のあとに減っていき、現在は毎年20~30羽が飛来して定着している状態です。

不思議なのは、この45年前の当時、井の頭でも不忍でも餌やりしているのに、不忍にはキンクロが大量にいて、井の頭にはいなかったっことです。

井の頭では七井橋のお茶屋さんではコイの餌が売られていました。みんな七井橋から池に餌を投げ込んで、そうすると濁った水面から巨大なコイの口が突然現れて、バクッと餌を飲み込む光景が思い出されます。コイの餌を横から頂戴していたカモは、カルガモやオナガガモでした。(カイツブリもパンなど啄んでいました)

それから、当時カイツブリの繁殖を観察していると、クチボソの幼魚とともに、透明な川エビもたくさん雛に与えていました。キンクロハジロが餌とするものとして、人が投じる餌と天然の餌、どちらも豊富にあったはずですが、キンクロがいなかったのです。

どういう理由なのか?私にはさっぱりわかりません。

「餌やり自粛キャンペーンをやったらカモが減った」これは説明しやすいですが、「餌やっていたのに井の頭にキンクロがいなかった」というほうは、なかなか科学的に説明できないことですね。

そういう意味では、当時井の頭にコゲラ、アオゲラはまったくいませんでした。それが最近では普通に見られるようになったのは、餌が増えたから、ではなく、別の理由であろうと思います。増えた、減ったというのは、餌との関係も一因でしょうし、それ以外の理由も複合的にあってのことだと思います。

suzuki

エゴツルクビオトシブミ(驚異の本能とその限界)

井の頭公園では毎年、エゴノキ(あるいはハクウンボク)の若葉が伸び始めた4月中旬ごろから、筒状に巻まかれた葉がいくつもぶら下がっているのを目にすることができます。これは、エゴツルクビオトシブミという甲虫(ゾウムシの仲間)が作った「落とし文」(揺籃)です。

▲エゴノキにぶら下がる揺籃(落とし文)

「落とし文」とは、密かに渡すために道端に落として相手に拾ってもらう手紙のことです。つまり巻いた揺籃を切り離して地面に落としたものを手紙に見立てたわけですが、エゴツルクビオトシブミは揺籃を切り離さないで「吊るし文」にしていることが多く、見つけやすいのです。

この葉を広げてみるともっとも内側に卵が1個だけ生みつけられているのが分かります。揺籃の中で孵化した幼虫は内部の葉を食べて成虫にまで育ちます。揺籃は外敵から守るシェルターであり、食料でもあるのです。

▲揺籃の中に産み付けられた卵

揺籃がついたエゴノキをよく見ると、揺籃の作り主、エゴツルクビオトシブミが見つかります。

▲エゴツルクビオトシブミのメス(左)とメス(オス)。オスの長い首(ツルクビ)が特徴。メス(右)の首は長くない。体長5~7mmぐらいの大きさ

私は、オトシブミについては、ファーブル昆虫記(子供向けにリライトされたもの)を読んで知っていただけだったので、これが実際に井の頭公園で見られると知ってわくわくし、一時観察に夢中になりました。

4月中頃羽化したメスは、伸びてきたエゴノキ(ハクウンボク)の葉にやってきて、揺籃づくりを始めます。

先ず揺籃を作る葉を選ぶため、葉の上を歩いてチェックします。選んだら葉の横から切り始めて、主脈を横切ってJの字型になるような切り込みを入れます。次に葉を縦に二つ折りにして、下からくるくると巻き始めます。途中で産卵するようです。最後に巻物がほどけないようにすその始末をして終わります。これらの作業は、顎で噛んだり、脚の力で引き寄せたりしながら行うのです。

▲オスはメスが作業しているとき、マウントしていることが多い。交尾しているのか、他のオスから守っているのか。

このいくつもの複雑な工程を着々と間違えることなく続けるオトシブミは、すべて本能の命令に従った機械的作業で揺籃を作っているわけで、「本能ってすごい!」と感嘆してしまいます。どんな熟練の職人でも、あるいはAIロボットでも、このような揺籃を作るのは、至難の業ではないでしょうか。

しかし、揺籃づくりを観察していると、時々何かの障害にあって途中で作業をやめてしまうことがあります。途中でやめてしまった揺籃に戻って続きを行うことはありません。また、新しい場所で1からやり直すだけのようです。スタートから終了までの一連の工程が連続するようにプログラミングされているので、後戻りしたり、一旦やめた作業の続きを行ったりすることはできないらしいのです。これが本能的行動の限界なのでしょうか。 自然界は想定外の出来事が多すぎて、プログラミングしきれないわけです。できた揺籃を調べてみると、当然ながら大きさが違うし、失敗作かなと思うものもあります。オスが争いをして作業を邪魔したり、天敵が襲ってきたり、卵を狙って忍び寄る寄生蜂があらわれたりして、いろいろなドラマが生まれます。それが観察の醍醐味になります。

▲おかしな切込みが入った揺籃
▲オスが長い首を打ち合わせて争っている。それが邪魔になって揺籃が作れず、メスは飛び去る。小さな寄生蜂も忍び寄っていた。

今を記録する 過去を掘り下げる 未来を育む