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エゴノキとつながる生き物たち

 エゴノキ(エゴノキ科の落葉小高木)は、井の頭公園にはわりと多い樹木で、花や実が特徴的なので見分けやすいです。私がエゴノキという樹木を認識したのは、いろいろな生き物たちとつながりがあったからでした。

満開の花をつけるエゴノキ

春、若葉が伸び始めたころ、エゴツルクビオトシブミが羽化してきて、葉を巻いて揺籃をつくります。このオトシブミについては、先に記事に書きました。

エゴツルクビオトシブミには、寄生するハチやハエがいます。

戦いオスの足元には、黒い小さな虫がいる。揺籃の中に卵を産み付けようとしているようだ。

伸びてきた葉には虫こぶ(虫えい、ゴールなどともいう)が見られることがあります。虫こぶは昆虫などに寄生されたりして葉に異常が起きてできたものです。

エゴノキで一番目立つ虫こぶはエゴノネコアシと呼ばれるものです。

これは、エゴネコアシアブラムシと呼ばれるアブラムシによってできた虫こぶです。秋に産み付けられた卵が春に孵って、エゴノキの芽を吸汁し始め、新芽は変形して虫こぶができます。7月ごろ有翅虫(翅のある成虫)が生まれ、虫こぶから飛び出して、イネ科のアシボソという草に移動。10月ごろまた翅のあるメスがエゴノキに戻ってオスとメスが産まれ、この雌雄が交尾して卵を産むそうです。複雑な生態ですね。

エゴノネコアシ以外にも、エゴノキの葉には、様々な虫こぶができます。

これらの中の1つを切って中を見ると、ウジ型の幼虫が入っていました。タマバエの一種だと思われます。

黄色いウジ型の幼虫

ネットで調べると、アブラムシ・タマバエのほかにキジラミの仲間もエゴノキに虫こぶを作るそうです。さらに、こうした虫こぶのなかの昆虫に寄生するハチもいるようです。

エゴノキは5月ごろ白い小さな花を咲かせます。この花を好んで訪れる昆虫はハチの仲間です。(下向きの花のため、脚の力の弱いハエやアブは止まることができない。)

これらのハチたちは、体に花粉をつけて別の花のめしべに運び受粉させ、実を成らせます。

こうしたポリネーターたちのおかげで、7月ごろには、白い丸い実がたくさんなります。その時期を待っていたように現れるのが、エゴヒゲナガゾウムシです。

目が左右に突き出た不思議な顔をしたこの虫を初めて見たときは、ほんとうにびっくりして、いろいろ調べたり、みんなに紹介したりしたものです。

このゾウムシは、エゴノキの実の中に産卵し、幼虫は種の部分を食べて育ちます。オスは飛び出た目の顔をぶつけ合ってライバルと戦います。

エゴヒゲナガゾウムシとエゴツルクビオトシブミは、私のお気に入りの昆虫で、毎年「そろそろ出てくるころだ。」と探し始め、いろいろ新しい発見もありました。また、ついでに虫こぶに気づいたり、他の虫が目に入ったりもしました。

今年の発見は、シロテンクロマイコガという蛾です。この蛾は以前からたびたび目にはしてきたのですが、なぜかエゴノキで見ることが多いことに気づき、エゴノキの実に産卵しているのではないかと思うに至りました。

特徴のある飾り翅を持つシロテンクロマイコガ。くるくる回るように動くので「舞子蛾」というらしい。

秋も深まると、この実を食べにくる野鳥が現れます。シジュウカラ、キジバトなどが食べに来るのを見たことがあります。

エゴノキの実を食べるキジバト

しかし、なんといっても一番多く訪れるのはヤマガラです。エゴノキの実には、有毒なサポニン(エゴサポニン)が含まれているのですが、ヤマガラは両足で実をはさみつけ、器用にくちばしでつついて有毒な果皮を割り、中の種子だけを取り出します。(毒成分は種の成熟期には弱まるという説もありました。)

ヤマガラは、その場で食べるときもありますが、実を幹の割れ目や朽木、地面などに埋め込んで貯える習性(貯食)があります。餌が少なくなった冬の時期に取り出して食べたり、翌年の繁殖期にヒナに与えるエサとして使われたりします。

エゴノキの実を採るヤマガラ

貯食されたまま取り残された実は、発芽して新たなエゴノキに生長していくのでしょう。なお、ヤマガラによって果皮が除去されたエゴノキの種子は、果皮がついたままよりも発芽率が高いそうです。

知人は、落下したエゴノキの実を割って調べたところ、その半数以上の中にエゴヒゲナガゾウムシの幼虫が入っていたと言っていました。ヤマガラは、その幼虫も食べるらしいです。結果、エゴヒゲナガゾウムシが大量に増えるのを防いでもいることになります。

こうして、エゴノキという1種の樹木をざっと見ただけでも、多くの生きものがかかわっていることがわかりました。また、その生き物とつながる別の生きものがいて、食物網が形成されているわけです。

さらに、別種の樹木たちも、それぞれ別の生きものとつながっているのだと考えると、生態系の複雑さは、改めて驚きを感じます。

文責:takaku

エゴツルクビオトシブミ(驚異の本能とその限界)

井の頭公園では毎年、エゴノキ(あるいはハクウンボク)の若葉が伸び始めた4月中旬ごろから、筒状に巻まかれた葉がいくつもぶら下がっているのを目にすることができます。これは、エゴツルクビオトシブミという甲虫(ゾウムシの仲間)が作った「落とし文」(揺籃)です。

▲エゴノキにぶら下がる揺籃(落とし文)

「落とし文」とは、密かに渡すために道端に落として相手に拾ってもらう手紙のことです。つまり巻いた揺籃を切り離して地面に落としたものを手紙に見立てたわけですが、エゴツルクビオトシブミは揺籃を切り離さないで「吊るし文」にしていることが多く、見つけやすいのです。

この葉を広げてみるともっとも内側に卵が1個だけ生みつけられているのが分かります。揺籃の中で孵化した幼虫は内部の葉を食べて成虫にまで育ちます。揺籃は外敵から守るシェルターであり、食料でもあるのです。

▲揺籃の中に産み付けられた卵

揺籃がついたエゴノキをよく見ると、揺籃の作り主、エゴツルクビオトシブミが見つかります。

▲エゴツルクビオトシブミのメス(左)とメス(オス)。オスの長い首(ツルクビ)が特徴。メス(右)の首は長くない。体長5~7mmぐらいの大きさ

私は、オトシブミについては、ファーブル昆虫記(子供向けにリライトされたもの)を読んで知っていただけだったので、これが実際に井の頭公園で見られると知ってわくわくし、一時観察に夢中になりました。

4月中頃羽化したメスは、伸びてきたエゴノキ(ハクウンボク)の葉にやってきて、揺籃づくりを始めます。

先ず揺籃を作る葉を選ぶため、葉の上を歩いてチェックします。選んだら葉の横から切り始めて、主脈を横切ってJの字型になるような切り込みを入れます。次に葉を縦に二つ折りにして、下からくるくると巻き始めます。途中で産卵するようです。最後に巻物がほどけないようにすその始末をして終わります。これらの作業は、顎で噛んだり、脚の力で引き寄せたりしながら行うのです。

▲オスはメスが作業しているとき、マウントしていることが多い。交尾しているのか、他のオスから守っているのか。

このいくつもの複雑な工程を着々と間違えることなく続けるオトシブミは、すべて本能の命令に従った機械的作業で揺籃を作っているわけで、「本能ってすごい!」と感嘆してしまいます。どんな熟練の職人でも、あるいはAIロボットでも、このような揺籃を作るのは、至難の業ではないでしょうか。

しかし、揺籃づくりを観察していると、時々何かの障害にあって途中で作業をやめてしまうことがあります。途中でやめてしまった揺籃に戻って続きを行うことはありません。また、新しい場所で1からやり直すだけのようです。スタートから終了までの一連の工程が連続するようにプログラミングされているので、後戻りしたり、一旦やめた作業の続きを行ったりすることはできないらしいのです。これが本能的行動の限界なのでしょうか。 自然界は想定外の出来事が多すぎて、プログラミングしきれないわけです。できた揺籃を調べてみると、当然ながら大きさが違うし、失敗作かなと思うものもあります。オスが争いをして作業を邪魔したり、天敵が襲ってきたり、卵を狙って忍び寄る寄生蜂があらわれたりして、いろいろなドラマが生まれます。それが観察の醍醐味になります。

▲おかしな切込みが入った揺籃
▲オスが長い首を打ち合わせて争っている。それが邪魔になって揺籃が作れず、メスは飛び去る。小さな寄生蜂も忍び寄っていた。