井の頭公園(東京の平地)では、11月後半ぐらいの時期から3月上旬まで、フユシャク(冬尺)と呼ばれる蛾が見られる季節になります。
フユシャクは、シャクガ科に属する蛾の仲間で、分類的にはフユシャク、ナミシャク、エダシャクの三つの亜科が含まれる蛾の総称です。厳寒期に成虫が羽化し、交尾産卵します。卵は樹木や低木の新芽が出る春に孵化し、幼虫はその葉を食べて初夏に蛹になり、晩秋までずっと蛹で過ごします。年1化なので、成虫はこの時期しか見られません。
見かけはとても地味ですが、その独特な生態によって一部愛好家を惹きつける蛾でもあります。
11月後半に先ず出現するのが、クロスジフユエダシャクという名のフユシャクです。ほとんどのフユシャクが夜行性であるのに対して、クロスジフユエダシャクは昼行性なので、昼間にその暮らしぶりを目にすることができます。


写真でわかるように、クロスジフユエダシャクのメスは翅が退化していて、飛ぶことができません。オスは羽化してくるとひたすら地面近くをひらひらと飛び回ります。それは、地面から羽化(翅が退化しているのに羽化というのはちょっと変かもしれない。)してくるメスを探す行動です。メスは、フェロモンを出してオスを呼びます。オスの触覚は櫛状になっていて、そのフェロモンを感知することができます。
運がよければ、オスが急に枯葉の中に潜り込み、翅をバタバタさせるような行動を取るのが見られることがあります。それは、オスがメスを発見した瞬間なのです。




交尾を終えるとメスは産卵します。卵は緑色のきれいな粒々です。擬木柵に産み付けられるととても目立つので、孵化するまで残っていることはほとんどありません。擬木柵をうろついているメスを樹木の幹に移すと、驚くほどの速さで幹を登っていくので、本来はこうした樹の幹の洞などに産卵するものなのかもしれません。産卵したメスはお腹がしぼんでしまい、やがて命が燃え尽きます。

フユシャクのもう一つの特徴は、食べ物を摂るための口吻も退化していることです。つまり、羽化してからは飲まず食わずでひたすら交尾相手を探し、繁殖するためだけに生きていることになります。
そもそも冬場は蛾の餌となる蜜源も少ないので、多くは休眠している時期です。敢えて探し回っていたずらにエネルギーを消費するよりも、ひたすら繁殖のためだけにエネルギーを使う道を選んでいるのでしょう。そう考えると、メスの翅が退化している利点もわかります。
また、餌が体内にあると、凍結核になってしまうからという説もありました。つまり食べないと耐寒性も増すらしいです。
そして短時間で交尾相手と出会えるように、発生時期を合わせ、発生場所も集中させているように見えます。
私は、井の頭公園で14種ぐらい(見分けに自信がないものもあるので、あえて「ぐらい」としました)のフユシャクを見てきました。これらは少しずつ発生期がずれています。
多くは夜行性なので、もし夜に観察すれば、暗い中でクロスジフユエダシャクと同じような行動を取っているのでしょう。














また、フユシャク亜科に属するフユシャクの♀は、産卵した卵に自分の体の毛を擦り付けてカバーします。そのため産卵後には、とてもみすぼらしい姿になります。


産卵を終えたメスが、命のろうそくが燃え尽きるのを待つように、静かに余生を過ごしている姿もよく見かけます。
究極の省エネで極寒期を生きるフユシャクたちの生き様は興味深いです。
文責:takaku






