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ヤマガラは寝るのが早いのか?

玉川上水沿いの住宅地の電柱を塒にしているヤマガラがいます。

気が付いたのは2021年の秋。エゴノキにとまって地鳴きするヤマガラがいたのですが、同じ場所でずっと鳴いていて、5分近く継続していたので不思議に思って観察していましたら、電柱にあるパイプの中に入っていきました。

塒入りの前は、ほぼ毎回、この木のこの枝にとまって、左右に首を振りながら「シシシー」と地鳴きを繰り返します。(スマホで撮影)
そして、電柱の横棒になっているパイプの中に入っていきます。2021年秋は「A」で示したパイプの先端から入ってました。2022年秋は「B」の根元のほうから入ってきます。(スマホで撮影)

2021年秋に気が付いたときには、春になったらこのパイプで繁殖するのかな?と思いましたが、2022年、ここを巣にすることはありませんでした。

塒入りは毎回だいたい15時~15時半の間です。この時期の日の入時刻は16:30ころなので、寝るには早いんじゃないの?と思ってしまいます(笑)。ムクドリの集団での塒入りはいつも日の入時刻の30分前から始まります。ムクドリと比べるとずいぶん早いことになります。

非繁殖期のヤマガラは、自分の腹を満たす分だけ食べ終えたら、もうやることないし、安全な塒の中で寝てしまおう!となるのかもしれません。

私は毎週火曜日に仕事でこの場所に行きます。去年も今年も気が付いたのは秋ですが、私がこの場所に行く時間とヤマガラの塒入りの時間が合うのが秋だという事だと思います。夏ごろは、日の入時刻が遅いので、塒入りも遅くなっているだろうと思います。

2022年12月13日撮影。この日は出入り口から顔を出して、15分くらいボーっと空を眺めていて、そしてスッとパイプの中に入りました。空を眺めている間は、微動だにせず、バードカービングが置かれているかのようでした。

suzuki

エゴノキとつながる生き物たち

 エゴノキ(エゴノキ科の落葉小高木)は、井の頭公園にはわりと多い樹木で、花や実が特徴的なので見分けやすいです。私がエゴノキという樹木を認識したのは、いろいろな生き物たちとつながりがあったからでした。

満開の花をつけるエゴノキ

春、若葉が伸び始めたころ、エゴツルクビオトシブミが羽化してきて、葉を巻いて揺籃をつくります。このオトシブミについては、先に記事に書きました。

エゴツルクビオトシブミには、寄生するハチやハエがいます。

戦いオスの足元には、黒い小さな虫がいる。揺籃の中に卵を産み付けようとしているようだ。

伸びてきた葉には虫こぶ(虫えい、ゴールなどともいう)が見られることがあります。虫こぶは昆虫などに寄生されたりして葉に異常が起きてできたものです。

エゴノキで一番目立つ虫こぶはエゴノネコアシと呼ばれるものです。

これは、エゴネコアシアブラムシと呼ばれるアブラムシによってできた虫こぶです。秋に産み付けられた卵が春に孵って、エゴノキの芽を吸汁し始め、新芽は変形して虫こぶができます。7月ごろ有翅虫(翅のある成虫)が生まれ、虫こぶから飛び出して、イネ科のアシボソという草に移動。10月ごろまた翅のあるメスがエゴノキに戻ってオスとメスが産まれ、この雌雄が交尾して卵を産むそうです。複雑な生態ですね。

エゴノネコアシ以外にも、エゴノキの葉には、様々な虫こぶができます。

これらの中の1つを切って中を見ると、ウジ型の幼虫が入っていました。タマバエの一種だと思われます。

黄色いウジ型の幼虫

ネットで調べると、アブラムシ・タマバエのほかにキジラミの仲間もエゴノキに虫こぶを作るそうです。さらに、こうした虫こぶのなかの昆虫に寄生するハチもいるようです。

エゴノキは5月ごろ白い小さな花を咲かせます。この花を好んで訪れる昆虫はハチの仲間です。(下向きの花のため、脚の力の弱いハエやアブは止まることができない。)

これらのハチたちは、体に花粉をつけて別の花のめしべに運び受粉させ、実を成らせます。

こうしたポリネーターたちのおかげで、7月ごろには、白い丸い実がたくさんなります。その時期を待っていたように現れるのが、エゴヒゲナガゾウムシです。

目が左右に突き出た不思議な顔をしたこの虫を初めて見たときは、ほんとうにびっくりして、いろいろ調べたり、みんなに紹介したりしたものです。

このゾウムシは、エゴノキの実の中に産卵し、幼虫は種の部分を食べて育ちます。オスは飛び出た目の顔をぶつけ合ってライバルと戦います。

エゴヒゲナガゾウムシとエゴツルクビオトシブミは、私のお気に入りの昆虫で、毎年「そろそろ出てくるころだ。」と探し始め、いろいろ新しい発見もありました。また、ついでに虫こぶに気づいたり、他の虫が目に入ったりもしました。

今年の発見は、シロテンクロマイコガという蛾です。この蛾は以前からたびたび目にはしてきたのですが、なぜかエゴノキで見ることが多いことに気づき、エゴノキの実に産卵しているのではないかと思うに至りました。

特徴のある飾り翅を持つシロテンクロマイコガ。くるくる回るように動くので「舞子蛾」というらしい。

秋も深まると、この実を食べにくる野鳥が現れます。シジュウカラ、キジバトなどが食べに来るのを見たことがあります。

エゴノキの実を食べるキジバト

しかし、なんといっても一番多く訪れるのはヤマガラです。エゴノキの実には、有毒なサポニン(エゴサポニン)が含まれているのですが、ヤマガラは両足で実をはさみつけ、器用にくちばしでつついて有毒な果皮を割り、中の種子だけを取り出します。(毒成分は種の成熟期には弱まるという説もありました。)

ヤマガラは、その場で食べるときもありますが、実を幹の割れ目や朽木、地面などに埋め込んで貯える習性(貯食)があります。餌が少なくなった冬の時期に取り出して食べたり、翌年の繁殖期にヒナに与えるエサとして使われたりします。

エゴノキの実を採るヤマガラ

貯食されたまま取り残された実は、発芽して新たなエゴノキに生長していくのでしょう。なお、ヤマガラによって果皮が除去されたエゴノキの種子は、果皮がついたままよりも発芽率が高いそうです。

知人は、落下したエゴノキの実を割って調べたところ、その半数以上の中にエゴヒゲナガゾウムシの幼虫が入っていたと言っていました。ヤマガラは、その幼虫も食べるらしいです。結果、エゴヒゲナガゾウムシが大量に増えるのを防いでもいることになります。

こうして、エゴノキという1種の樹木をざっと見ただけでも、多くの生きものがかかわっていることがわかりました。また、その生き物とつながる別の生きものがいて、食物網が形成されているわけです。

さらに、別種の樹木たちも、それぞれ別の生きものとつながっているのだと考えると、生態系の複雑さは、改めて驚きを感じます。

文責:takaku

ヤマガラの分業制 その2

先日の記事『ヤマガラの分業制』をアップした後、複数の知人に、ヤマガラの餌渡し行動に関する知見や文献の有無を聞いてみました。

『砧公園で同じ行動と思われる場面を見た』という井の頭自然の会のメンバーからの報告が1例あり、また『2020年のラインセンサス調査のときにも見た』と同じく当会メンバーの報告もありました。また、ネットを介して知り合った方からは『富士山麓で、すでに雛は巣立っていたが、成鳥雄から成鳥雌への餌渡しを見た』という報告がありました。

そして、恩師の安西英明先生から、日本野鳥の会の会長である上田恵介先生(立教大学名誉教授)や、日本鳥学会の会長も歴任された樋口広芳先生(東京大学名誉教授)に「ヤマガラの餌渡し行動」について問い合わせていただき、両先生から貴重なアドバイスをいただくとともに「今後の調査の発展に期待します」というメッセージをいただきました。

その後、ネットでこの行動に関連する論文をいくつか発見しました。

ヤマガラの巣箱設置による繁殖個体数増加と高密度下における繁殖生態 (荒木田 善隆 1995)

上記論文では、抱雛期(孵化後の雛にまだ羽毛が揃わず、親が温めなければならない期間)に、巣の中でも雄から雌に餌が渡されるパターンがあり、その場合も雌が翼を震わせる求愛給餌同様の仕草があるとのこと。

そして、育雛期間の雌雄の給餌回数が1988年のつがいが「雌152回,雄124回」、1989年のつがいが 「雌207回,雄91回」と雌に偏りがあることが報告されています。

カラ類3種の育雛行動における雌雄間の比較
近藤 崇, 早瀬晴菜, 肘井直樹 (名古屋大・生命農・森林保護 2016)

この発表にはシジュウカラ、ヒガラ、ヤマガラの給餌回数に関する報告があり『シジュウカラとヒガラでは雄が約50–70%,逆にヤマガラでは雌が約50–80%』と報告されています。

これらの報告にあるように、ヤマガラの給餌回数が雌に偏っているのは「餌渡し行動」があるからにほかならないだろうと想像しています。

しかし、餌渡しの多い事例と少ない事例があるようです。それはぺアの個性によるものなのか?あるいは巣と餌場の距離関係などによって頻度が左右されるのか?そのあたりを調べていきたいと考えているところです。

ヤマガラ幼鳥 2022/6/25

樋口先生から教えていただいたのですが、ヤマガラは雌から雄に求愛給餌することもあるそうです。そして巣立ち後に雛が2つのグループに分かれて、成鳥雄と雌がそれぞれ分担育雛することもあるそうです。

上記の写真を撮ったとき、成鳥1と幼鳥2だけしか見られなかったので、もしかするとグループに別れているところだったのかもしれません。

行動を観察するのは楽しいですが、この時期になると幼鳥たちも木の高いところまで行くので、首が痛くなります・・(笑)。

suzuki

ヤマガラの分業制

 5年ほど前まで、井の頭でのヤマガラは『冬になるとやってくる鳥』という位置づけで繁殖はしていませんでした。

 井の頭自然の会が発足した2018年に1例の繁殖(過去10年で2例目)が確認されましたが、翌2019年は繁殖は無くなり、単発だったのか?と思いましたが、2020年からここ3年間は毎年複数個所で繁殖が確認されるようになり、数も増えてきています。

 ヤマガラの繁殖行動が身近なところで観察できるようになり、巣内育雛期の餌の運び方がシジュウカラとは違い、分業になっていることに気が付きました。

 下記の写真は2021年の5月2日のものです。

奥の成鳥も手前の成鳥も餌をくわえているのがわかると思います。手前の成鳥は翼を小刻みに震わせて、餌をねだるポーズをしています。
奥の成鳥の嘴から餌が無くなっています。
手前の成鳥に餌が渡されています。しばらくすると手前の成鳥は飛んで行って、下記の巣に餌を運びこんでいました。
この写真は上記3枚の餌渡しの直後ではなく、同日ですが少し時間が経ってから撮ったものです。

 最初にこの行動を見た時は「繁殖期真っ只中なのに求愛給餌してるのか?」と不思議に思いましたが、餌を渡された成鳥が巣に向かうことが確認できて、なるほどヤマガラはもっぱら餌を獲る係と、餌をすこし獲るものの、途中で「リュリリリリリリ・・・」というような細くてかわいい声を出し、翼を震わせて「運びますよ!」と合図し、相方から餌を受け取って運ぶ係に分かれていることを知りました。

 今年2022年にも、同じ行動を確認できました。

 私はシジュウカラではこのような行動は見たことがありません。

 餌場と巣とを往復する回数が減るという事は、それだけ餌を探す時間が多くなるので、給餌の効率としてはヤマガラ方式のほうが良いと思います。

 このようなヤマガラの餌の運搬、分業制についてネットで検索してみましたが、J-Stageなどに論文も無く、あまり知られていないようです。

 余力があれば、トレイルカメラなどでシジュウカラとヤマガラの帰巣回数や1回に運び込む餌の量など調べてみたいのですが、なんせ忙しいのでデータをとる時間がありません。学生さんなどで手伝ってくれる方いないでしょうかね?

suzuki